「夜はクマしか通らないような道路は、どこの金でできているんだ」。石原慎太郎元東京都知事の発言である。今から20年前の2002年、当時の平山征夫本県知事らと同席したエネルギー関連のシンポジウムでのことだ

▼原発立地地域では住民が不安を抱えて生きていると訴えた平山氏に対し、都会の視点で見下すような発言が飛び出した。救急搬送などに欠かせず、時に“命の道”となる地方の道路事情に、あまりに無理解な言葉だった。一方、同調する都会の住民もいて悲しくなったものだ

▼地方の交通を巡り新たな動きが出てきた。経営が厳しい地方鉄道の存廃を国主導で協議することになった。対象路線になるかどうかの物差しは主として「1キロ当たりの1日平均乗客数」。「輸送密度」と呼ぶ。地方にとっては冷たい響きの言葉である

▼乗客が少なければ路線が維持できないのは自明のことだ。路線バスやバス高速輸送システム(BRT)への転換などで利便性が向上するケースもあると聞く。路線の廃止ありきでは協議しないという

▼しかし、自治体からは輸送密度を目安にした協議入りについて「いかにも廃止を目的にしたものに見える」と懸念の声が漏れる。地方側に警戒感が漂うのは、都市部の関係者も石原氏のように考えているかもしれないと、いぶかっているからではないのか

▼「夜はクマしか通らないような路線は、どこの金で維持してるんだ」。こんな都市部の論理が透けて見えるようでは、対話もおぼつかない。

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