〈夕涼み昭和の夏にあったとさ〉桜井さち子。2018年の本紙投稿作だ。その年の夏は胎内市中条で40・8度という全国歴代8番目の暑さを記録した。列島中、酷暑の夏だった

▼日暮れ時、外に出て暑さをしのぐのが夕涼み。縁涼み、橋涼み、磯涼み…。うちわを手に一陣の涼風を求める伝統の消夏法だ。だが昨今は帰宅後、犬を散歩に誘おうにも歩道がまだ熱い。夜も寝苦しい。夕涼みは過去の風物詩になってしまった

▼今夏は18年より要警戒かもしれない。梅雨は最速で明けた。戻り梅雨があったとはいえ蒸し暑さが戻ってきた。県内では6月に熱中症で搬送された人が211人。全国と同じく過去最多だ

▼最近1カ月は高齢者が約6割で自宅からのSOSが4割を超す。夕涼みどころか、屋内も屋外も逃げ場がない感じ。〈クーラーは勿体(もったい)ないがありがたい〉湯井祥人。これも18年の投稿作。エアコン普及率は9割を超えた

▼ただ、単身高齢者の普及率は8割台にとどまる。暑さをじっと我慢し、体調を崩す例が後を絶たない。物価高でお財布事情もあろう。節電も必要とはいえ、命あっての物種だ。疫病関連の支援も大切だが、エアコンがない世帯への購入補助を手厚くできないか

▼〈猛暑日に夏バテしたか冷蔵庫〉星武。先の2句と一緒に並んでいた川柳だ。私たちの知恵と生命力を試すような炎暑本番はこれから。冷蔵庫の製氷もフル回転だろう。帰宅してエアコンからの冷風を前に汗をぬぐう。これこそ現代版の夕涼み光景か。

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