1963年のケネディ暗殺事件の謎に迫った映画「JFK」(オリバー・ストーン監督)は、オープンカーでのパレード中に狙撃された米大統領の警護がいかにずさんだったかを描く。それがオズワルドの単独犯ではなく、中央情報局(CIA)などによる陰謀論の根拠の一つとなった
▼映画で「ミスターX」と呼ばれ、事件の内幕を知る人物は陰謀論を追及する検事にヒントを与える。パレード会場を見下ろすビルの窓を開けさせない、群衆とその持ち物を厳しく監視し、傘さえも開かせない-。警護の基本を列挙した後「何一つ実行されなかった」と断言した
▼こちらも警護の甘さという点では通じるものがある。奈良市で参院選の街頭演説中に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件である。映像を見ると要人警護の基本が無視されたように映る
▼演説中の元首相の背後に容疑者がなぜ近づくことができたのか。1発目と2発目の発砲の間に3秒ほどあったのに、なぜ警護担当者は元首相に覆いかぶさるなどの対処をしなかったのか
▼安倍氏は参院選公示翌日の6月23日、上越市でも遊説した。事件現場での演説と異なり選挙カーの上からだったが、もし同様の襲撃があったとしたら防げただろうか
▼警察庁は警備の検証チームを設置し、8月中に結果を取りまとめる。ケネディ暗殺のように陰謀論の影が差すような余地はないだろうが、銃撃を許した背景を余さず明らかにしたい。日本社会が誇ってきたはずの安全を取り戻さなくては。