病気や事故などで親を亡くした子どもに奨学金を支給する「あしなが育英会」は、柏崎市出身の岡嶋信治さんが礎を築いた。現在、会の名誉顧問を務める人である
▼岡嶋さんは早くに父親を亡くし、親代わりになって家族を支えた姉をトラックのひき逃げ事件で失った。突き動かされるように1967年に結成した交通事故遺児を励ます会が、育英会の前身となった
▼その育英会の奨学金申請が急増している。物価高やウイルス禍の影響が見て取れる。5月の1次締め切り分で3817件の申請があり、既に前年度、前々年度の年間申請数を超えた。過去最多となる見通しだ
▼育英会は今春、奨学生の保護者にアンケートをした。報告書には切実な声があふれる。倹約に倹約を重ねる日々の食事。感染が失職や減給につながる恐怖。「毎日が綱渡り」 「子どもに申し訳ない」 。 教育に希望を託しながらも、生活苦に「生きている意味があるのか」とすら漏らす
▼元首相を銃撃した容疑者も幼くして父親を亡くしていた。母親は宗教にのめり込み、困窮していたとされる。凶行が肯定される余地はみじんもないが、学力は高く兄妹思いだったと報道される容疑者が、歩めたかもしれない全く別の人生を想像してみる
▼子にとっての親であれ、親にとっての子であれ、誰もがいつ大事な人を失うことになるか分からない。置かれた環境や立場はさまざまでも、行き詰まりそうになったときはお互いさまなのだと、頼り頼られる仕組みを大切にしたい。