アイヌの人々は生活と密接に関わる生き物や自然、道具などを人知の及ばない霊的な存在「カムイ」であると考えたという。カムイを代表する存在はクマだ。カムイと言えば、そのままクマを指すこともあるらしい
▼そんなクマの爪痕のように見えた。一昨日からきのうにかけてレーダー画面に現れた何本もの雨雲の筋は、カムイの中のカムイが鋭い爪を立てたようだった。とりわけ画面上で真っ赤に表示された筋は、強力な雨雲が連なる「線状降水帯」だった
▼関川村ではきのう未明、国土交通省の雨量計で1時間に161ミリという激烈な雨が降った。気象庁は80ミリ以上の降雨を「猛烈な雨」と呼ぶ。予報で使う最も強い表現で「息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感じる」と説明される。今回はそれをも上回るような降り方だった
▼豪雨の水準は、当初の予想をはるかに超えた。気象庁は6月に線状降水帯の発生予報を始めたが、精度には課題が残る。2019~21年の大雨で検証すると、予測に対して実際に発生したのは4回に1回程度。一方で、3回に2回程度は発生を予測できなかった
▼現状では、いわゆるゲリラ豪雨を正確に予測するのは難しい。近年は「数十年に1度」レベルの豪雨が繰り返されている。自然には人知を超える領域がなお多数ある。限られた経験に頼りすぎると、未知のリスクに直面することになりかねない
▼人知の及ばない自然を畏れる心を忘れずにいたい。土砂災害を含め、まだまだ警戒を怠れない。