キャラメルというお菓子の魅力は、口に広がる甘さだけではないのだろう。ちょうど子どもの手に収まる紙箱の大きさがうれしかった気がする。一箱丸々、自分だけのものにできる
▼古い箱を先日見た。東京にある昭和館という施設での企画展で見た。1929(昭和4)年に発売されたミルクキャラメルのものだ。犬と戯れる子の姿が多色で描かれている。これを手にした少年少女の表情はにこにこだろう
▼影が差したのは、その後だった。日中戦争が37年の夏に始まると菓子が手に入らなくなっていく。物資が統制され、砂糖や小麦粉を自由に買えなくなり、製菓業者も原材料を調達できない。家庭用の砂糖は配給停止になる
▼菓子というものが、命をつなぐ携行食へと役割を変えていった時代だった。展示されていたキャラメルの広告ポスターは、重い気持ちにさせる。半ズボン姿の少年が描かれている。手には進軍を告げるラッパを握る
▼眺めていると、甘いキャラメルからはほど遠い、苦いものがこみあげてくる。当時の子どもたちは今からは想像できないほど甘味への欲求を募らせていたのだろう。胃腸薬の糖衣錠を食べてしまう子もいたという。砂糖の配給統制が解かれたのは、終戦から7年もたってからだった
▼前に取材した高齢の女性を思い出す。「昔のことがあるから必ず神棚の奥に砂糖を隠しておくの」。そう言って、缶にしまった砂糖を見せてくれた。何十年たとうとも、苦々しく心に残る飢えだったのだろうと思う。