名曲は、いつまでたっても色あせない。そんな思いを強くするのは、高校野球のブラスバンド応援を耳にした時だ。こちらが幼いころに親しんだ曲に合わせて、若者たちが目を輝かせている

▼周囲の若い世代に、つい余計なことを言ってしまう。「『狙いうち』を歌ってた山本リンダって知ってる?」「『海のトリトン』っていうのはイルカに乗った少年が主人公のアニメで…」「『サンライズ』は元々、往年のプロレスラー、スタン・ハンセンの入場曲でね」

▼得意げにうんちくを披露したところで、冷たい視線が返ってくるのがオチである。曲が世に出たころの状況など知らなくても、若い世代は“今の曲”として親しんでいる。年の離れた彼らと同じ価値を共有したような気分になって、勝手に喜んでいる

▼かつてのヒット曲やアニメの主題歌がブラスバンド曲に生まれ変わり、甲子園のスタンドで鳴り響く。忘れられていく名曲も数多くある一方、ニーズに合わせてアレンジされ、寿命を延ばす曲もある

▼モノにも通じるのではないか。匠(たくみ)の技が注ぎ込まれたモノでも、生活の様式に合わなくなれば使う機会が減っていく。しかし暮らしの中で使いやすい工夫を施せば生き残りの道が開ける

▼国が指定する「伝統工芸品」について、県は地元産品を後押ししようとロゴマークの選定を進める。受け継がれてきた技を、現代の暮らしに合ったモノづくりに生かそうという動きもある。どんな存在にも、色あせない道があるのかもしれない。

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