日朝交渉が停滞しているとはいえ、「最重要課題」としてきた歴代政権の姿勢が後退した印象を与えはしないか。岸田政権は拉致問題の解決に、総力を挙げて取り組んでもらいたい。
第2次岸田改造内閣がスタートした。拉致問題担当相は引き続き、松野博一官房長官が兼務する。
対北朝鮮政策は外務、防衛、警察、経済産業など多くの省庁が一体となる必要がある。内閣の要である官房長官が担うことで強力に進めることが期待される。
拉致担当相は2006年に第1次安倍内閣で新設され、当初も官房長官が兼ねていた。08年の福田改造内閣で官房長官兼務が解かれ、被害者家族の信頼が厚かった中山恭子氏が少子化問題担当相も兼ねて就任した。
その後は主に国家公安委員長が兼務したが、18年の第4次安倍改造内閣で菅義偉官房長官が兼務してからはその態勢が続いている。
内閣が一体となって、「オールジャパン」で取り組む姿勢を示すものだろう。
懸念されるのは、松野氏が沖縄基地負担軽減担当相とワクチン接種推進担当相も兼ねていることだ。菅氏と前官房長官の加藤勝信氏が沖縄基地担当相のみを兼ねたのと比べて負担が重い。
米軍沖縄基地を巡る問題は、日本の安全保障政策と切り離すことができず、国際情勢が緊迫化する中で重みを増している。
新型コロナウイルスの収束が見通せない現状では、ワクチン接種の任務も引き続き重要だ。
安保、ウイルス対策にしっかり取り組むのは当然だが、拉致問題が置き去りにされてはならない。
拉致問題に注力できないようでは、北朝鮮に対して誤ったメッセージを送ることになりかねない。専任の大臣を置くべきだという意見が、与野党から出ているのも理解できる。
松野氏は改造後の記者会見で、改めて拉致問題を「最重要課題」と強調した上で「あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で取り組んでいきたい」と述べた。
だが過去の記者会見や国会答弁と同じ文言にとどまっている。もっと積極的な発信を求めたい。
拉致被害者家族会は「継続して取り組むことが大事だ」と留任を評価したが、これまで担当相が頻繁に交代してきたことの裏返しと受け止めるべきだろう。
岸田文雄首相が改造後の会見で拉致問題に言及しなかったことも見過ごすことはできない。
外交ではリーダーのメッセージが最も重視される。首相はそのことをしっかりと認識してほしい。
北朝鮮が拉致を認めた初の日朝首脳会談から来月で20年になる。
帰国を待つ拉致被害者の家族は高齢化している。政府は一刻の猶予もないと危機感を持ち、拉致問題を最優先に取り組むべきだ。
