スポーツの祭典が利権の巣窟になっていたのか。捜査当局は、カネの流れを洗い出し、暗部の全容を解明しなければならない。

 東京五輪・パラリンピックのスポンサー選定などを巡り紳士服大手AOKIホールディングス(HD)側から現金を受け取ったとして、東京地検特捜部は受託収賄の疑いで大会組織委員会の元理事高橋治之容疑者を逮捕した。

 贈賄の容疑では、AOKIHD前会長の青木拡憲(ひろのり)容疑者ら3人を逮捕した。

 スポンサー企業による不透明な資金提供疑惑が、汚職事件に発展した。五輪の歴史に大きな汚点を残す由々しき事態だ。

 高橋容疑者の逮捕容疑は、2017年1月ごろから多数回にわたり、青木容疑者らからスポンサー契約やライセンス商品の製造・販売契約の締結などで有利な取り計らいを受けたいとの請託を受け、賄賂を受け取った疑いだ。

 賄賂とみなされた現金は計5100万円で、高橋容疑者が代表を務めるコンサルタント会社を通じ、コンサル料の名目でAOKI側から受け取った。

 組織委の理事は「みなし公務員」と定められ、職務に関して賄賂を受け取れば収賄罪に問われる。

 高橋容疑者は調べに「現金は受け取ったが、賄賂という趣旨ではない」と容疑を否定している。

 焦点となるのは、スポンサー契約を巡る疑惑の解明だ。

 スポンサーの選定などは、広告大手電通からの出向者が多数在籍した組織委マーケティング局が事実上担っていた。

 東京地検は、電通の元専務だった高橋容疑者がAOKI側の意向を受け、電通人脈を使ってマーケティング局に働きかけた疑いがあるとみている。

 AOKIがスポンサーとして正式に発表される1年以上前に高橋容疑者が主導し、異例の「トップダウン」方式で事実上選定されていた疑いが新たに明らかになったが、これもAOKI側の依頼を受けた一つとみられる。

 AOKIが組織委に支払った5億円のスポンサー料が、同契約の基準の半分以下だったことについても、AOKI側の便宜を図ったとされる。

 逮捕容疑となった計5100万円とは別に、高橋容疑者は計2億3千万円を受け取っており、このカネの流れの解明も欠かせない。

 高橋容疑者は国際的なスポーツ大会などを成功させ、政財界にも幅広い人脈を持つ。関係者からは資金を裏金にして誰かに渡していたとの見方がある。

 今回の事件に関し、自民党幹部は「関係者の努力に水を差す」と非難し、野党は政治家の関与の可能性を含めて追及する考えだ。

 大会招致段階の資金提供疑惑もある。利権の構図にメスを入れ、ウミを取り除かねばならない。