ようやくウイルス禍前の水準に回復したとはいえ、まだ安心はできない。山積するリスクへの目配りが不可欠だ。

 今年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整値)の速報値が発表され、物価変動を除く実質で前期比0・5%増となった。このペースが1年続くと仮定すると、年率換算は2・2%増となる。

 日本の経済力を表す実質GDPの実額は年換算で542兆円になる。2019年10~12月期の540兆円を上回り、2年半ぶりに新型コロナウイルス流行前の水準まで回復した。

 けん引したのは個人消費の伸びである。前期比1・1%増、年率換算では4・6%増となった。

 3月下旬に新型ウイルスのまん延防止等重点措置が解除されて行動制限がなくなり、旅行や外食などが拡大したことが大きい。

 デジタル化に対応したソフトウエア関連の投資が増え、設備投資も前期比1・4%増となった。

 回復傾向が多方面に広がり、経済全体を押し上げていくことを期待したい。

 一方で、景気実感に近いとされる名目GDPは前期比0・3%増、年率換算で1・1%増で、力強さを欠いている。

 資源やエネルギー、穀物などの国際価格が高騰し、多くの企業が仕入れ値の上昇に直面していることなどが背景にあるだろう。

 7月の全国消費者物価指数は前年同月比で2・4%上昇し、14年12月以来、伸び率は7年半ぶりの大きさになった。値上げラッシュが家計を圧迫し続けている。

 物価上昇による個人消費への影響を注視しなくてはならない。

 心配なのは新型ウイルス感染が過去最多を更新していることだ。

 政府は社会経済活動を維持するとして現時点では行動制限の強化を見送っている。

 しかし医療が逼迫(ひっぱく)するなど状況が悪化すれば対応が変わる可能性があり、消費が下振れするリスクは拭えない。

 輸出主導による経済回復の見込みは薄い。米国GDPは4~6月期に2四半期連続でマイナス成長に陥っているほか、欧州と中国も低成長にとどまっている。

 政府がいま力を入れるべきなのは、内需を支えるきめ細かな対策を打つことだ。

 岸田文雄首相は、物価高対策などに充てる地方創生臨時交付金を1兆円から増額するよう指示し、高止まりする輸入小麦については製粉会社への売り渡し価格を10月以降も据え置くよう求めた。

 物価全体に丁寧に目配りし、十分な対策を講じてほしい。

 消費を下支えし、景気の底割れを防ぐためには今後、賃上げの実現が一層重要になってくる。

 政府は経営体力が弱い中小零細企業への支援を拡充するなど賃上げの環境も整えてもらいたい。