東京電力福島第1原発事故の反省から「可能な限り依存度を低減する」としてきたこれまでの方針との整合性が問われる。

 検証が終わっていない段階での国の方針は唐突で、違和感がある。丁寧な説明を求めたい。

 岸田文雄首相は24日、2023年夏以降に東電柏崎刈羽原発6、7号機を含む原子力規制委員会の新規制基準に適合した原発7基の再稼働を目指す方針を示した。

 脱炭素社会の実現に向けた方策を議論する「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で打ち出した。

 福島事故後に新規制基準に適合し、これまでに再稼働した10基に追加して、合わせて17基を稼働できるようにする。

 首相は「原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を取る」と強調した。「政治判断を必要とする項目が示された」として原発推進に向けた検討を加速することを表明した。

 政府はウクライナ危機で燃料の安定調達が脅かされ、電力需給の逼迫(ひっぱく)が予想されると強調するが、簡単にはうなずけない。

 国際情勢に便乗するかのように7基をひとくくりにして再稼働方針を打ち出すのは慎重さを欠く。

 東電は柏崎刈羽原発で信頼を揺るがす失態や不祥事を重ねた。運転する事業者としての適格性が問われている。

 6、7号機は新規制基準に合格後、テロ対策上の不備が相次いで発覚した。規制委は核燃料の移動を禁じる命令を出し、解除されるまで再稼働できない状況だ。

 再稼働に向けた手続きが先行していた7号機では「終了した」と公表していた安全対策工事が未完了だったことが分かった。

 6、7号機の消火配管では不正な手抜き溶接が多数行われていたことも判明した。

 6号機原子炉建屋に直結する大物搬入建屋のくいに損傷が見つかり、東電は中越沖地震の影響を認めたが、被災後にくい自体を点検していなかった。

 安全に対する意識が欠けていると言わざるを得ない。こうした東電の企業体質に改善が図られなければ再稼働の議論はできない。

 花角英世知事は原発の安全性を巡る県独自の「三つの検証」が終わるまでは再稼働を「議論しない」とし、検証結果を踏まえて自らの判断を示し、県民に「信を問う」と繰り返している。

 首相の方針は、こうした知事に対して判断を急がせる圧力にならないか、懸念が残る。

 政府は最長60年としてきた原発の運転期間の延長も検討する。老朽化した原発の安全性をどう確保するのかも心配だ。

 再稼働方針には原子力産業を活性化させる狙いもある。国には経済優先ではなく、立地地域に沿う姿勢を望む。