現場の負担を軽減するための緊急措置だ。同時に、どんな患者にも必要な医療が行き届く体制が確保されなくてはならない。

 政府は新型コロナウイルスの流行「第7波」で業務が逼迫(ひっぱく)する医療機関や保健所の負担を軽減するため、感染者の全数把握の方法を見直す方針を示した。

 全感染者を対象としている患者の発生届を、重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患がある人らに限定できるようにする。実施は都道府県に判断してもらう。

 発生届は、医療機関や保健所が政府の情報共有システムを通じてオンライン入力しているが、患者の氏名や生年月日、連絡先電話番号など報告項目が多い。

 感染者の8割程度は重症化リスクが低いとされる。そうした患者の発生届を省略することで現場の事務負担の軽減を図る。その狙いは理解できる。

 ただ、見直す場合でも、発生届の対象外となる人を含めて感染者の総数と年代別の内訳を報告してもらい、毎日公表する。

 全数把握をやめれば感染動向の把握に影響が出かねないと指摘されていたためだ。

 全国の新規感染者数は、23日までの1週間が前週の1・19倍となり、お盆や夏休みなどの影響で減少から増加に転じた。

 現状の高い感染レベルを踏まえれば総数の把握は不可欠だ。

 発生届の対象を絞る場合、課題になるのは、対象外となる感染者の健康管理だ。

 治療費はこれまで通り公費で負担されるが、保健所による健康観察が行われなくなるため、容体が急変した場合の対応が難しい。

 政府は体調悪化時に連絡できる健康フォローアップセンターが全都道府県に設置されるよう取り組む。患者が医療から取り残されることがないように、しっかりと目配りしなくてはならない。

 政府が今回、発生届の扱いを都道府県に委ねた方針には、地域の実情に合わせて選択できるとして歓迎する自治体がある一方、丸投げだとの批判もある。

 地域によって対応が異なれば、全体像がつかめなくなるとの指摘もある。政府は自治体任せにするのではなく、現場が混乱することがないようにガイドラインを示すなど、丁寧に説明するべきだ。

 岸田文雄首相は水際措置を9月7日から緩和するほか、発症者の療養期間短縮を協議する方針を示した。全国一律の全数把握見直しなど対策の全体像については「感染状況の推移を見た上で、速やかに示す」とするにとどまった。

 今回の政府の対応は、過去に経験したことがない規模で感染が拡大する中で、見直しを求める知事らの声を受けてようやく重い腰を上げたように映る。

 首相は状況を見据え、抜本的な対策を早急に打ち出すべきだ。