取り返しのつかない失態を反省し、要人の命を守る体制を不断に検証していかなければならない。
安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され死亡した事件を巡り、警察庁は警護の検証・見直し結果を公表した。計画段階で警護担当者を適切に配置していれば、事件を阻止できた可能性が高いなどと不備を指摘した。
今回の警護警備に関しては、さまざまな問題点が指摘されていた。警察庁はそれらを教訓に再発防止策を報告書に明記した。
その一つは、警護の運用を定めた「警護要則」の全面改正だ。
これまで要人警護は都道府県警が行っていたが、今後は都道府県警が作成した警護計画を警察庁が事前審査するなど関与を強める。
安倍氏は警戒に隙があった会場後方から銃撃された。検証によると、会場後方を多数の車や人が通過する現場の危険性は、警護計画の作成段階で見落とされた。
現場の警護能力も問われた。演説前に警護担当者が無線を使わずに配置と警戒方向を変更したため、情報共有されず、統括役も必要な補強措置を取らなかった。
改善策としてSP(警護官)が所属する警視庁に道府県警が研修で派遣している人数を増やし、警護担当者の底上げを図るとした。
こうした体制の強化は不可欠だが、課題も少なくない。
現場では状況変化に応じ、警護計画を柔軟に見直すなどの対応が求められることもあるだろう。
能力の底上げについては、警護の機会が少ない地方ではノウハウの維持が困難との見方がある。多くの人員を研修に派遣すれば、警察の体制がその分手薄になる。
見直しでは、ドローンや人工知能(AI)を活用し、マンパワーを補うことも掲げた。うまく機能させることが課題になろう。
選挙中の演説は有権者が候補者の訴えを直接聞き、投票の参考にする機会でもある。
中にはヤジを飛ばす人もいるだろうが、不必要に有権者を排除する行き過ぎた警護にならないようにしたい。
効果的な警護体制をつくるには、一つ一つの事例を丁寧に検証していく必要がある。
これまで要人警護は「うまくいけばそれで終わり」というのが実情で、「現場が抱える問題への認識が足りなかった」と警察庁幹部は打ち明ける。警察組織の意識改革も求められる。
人事に関しては、警察庁の中村格(いたる)長官が事実上の引責辞任をした。奈良県警の鬼塚友章本部長も辞職する。個別の事件で警察庁長官が辞任するのは異例だ。
来月27日には安倍氏の国葬が控える。来年5月には広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。
警察当局は一層の緊張感を持って体制を整えてもらいたい。
