安全性確保や事故時の避難方法、核のごみを巡る問題など解決されていない課題は多い。

 打開への道筋を示さぬまま、「原発回帰」を強く打ち出すことには疑問が残る。

 岸田文雄首相は脱炭素社会を実現するため、将来的な電力の安定供給に向け、次世代型原発の建設を検討する方針を打ち出した。

 東京電力福島第1原発事故後、原発の新増設やリプレース(建て替え)は想定しないとしてきたエネルギー政策の大転換だ。

 同時に東電柏崎刈羽原発6、7号機の来年夏以降の再稼働や、最長60年としてきた運転期間の延長を検討する方針を示し、原発を推進する姿勢を鮮明にした。

 国のエネルギー基本計画は、2010年の策定時に原発新増設が明示されたが、11年の福島事故を受けて当時の民主党政権は認めない方向へ転換し、自民党政権になってからも盛り込まれなかった。

 昨年の計画改定時にも福島事故の反省が明記され、原子力は「可能な限り依存度を低減」という従来方針を維持していた。

 安全性に対する国民の懸念などへの配慮から新増設の具体的な議論は見送られてきた。方針転換に反発が出る可能性もある。

 福島では、高い放射線量で地元に帰れない避難者が今も数万人に上り、30~40年かかるとされる廃炉作業は遅々としている。

 29日は東電が柏崎刈羽原発などで原子炉の炉心隔壁のひび割れなどを発見しながら記録を改ざん、隠蔽(いんぺい)した組織ぐるみのトラブル隠し発覚から20年となる。

 柏崎刈羽では、原発の安全管理などで東電の不祥事がいまだに続いている。住民避難など原発の安全性を巡る県独自の「三つの検証」の結論も出ていない。

 原発の運転期間は原則40年と定められ、原子力規制委員会が認めれば1回に限り最長20年延長できるルールとなっている。

 国は、長期の稼働停止を運転期間に含めないよう検討する。延長を複数回可能にする案もある。地震大国の日本で、老朽化した原発の安全性確保に懸念が残る。

 次世代型原発の導入には、炉型や設計に応じた新たな規制基準が必要で、原子力規制委は策定に時間がかかると指摘している。

 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場は未定で、次世代型原発でも核のごみの処分が課題になることに変わりはない。

 政府は再生可能エネルギーを最優先で導入し、30年度には電源構成に占める割合を今の2倍の36~38%に拡大するとしていた。

 その方針をどうするのかも示さなくてはいけない。

 経済産業省は専門家を交えて課題を洗い出し、年内に新方針の結論を得る考えだ。福島事故の教訓を踏まえ、安全優先の姿勢で臨まねばならない。