いったん利用するとやめることができないなど以前から不便さが指摘されていた。必要な時だけ使えるようにするといった利用者本位の制度へ改善を急ぐべきだ。
認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人を支援する成年後見制度について、法務省は柔軟に運用ができるよう民法改正に向けた検討を始めた。
成年後見制の2000年導入後、初の大幅見直しとなる。
成年後見制は、本人や家族らが利用を申し立て、家庭裁判所が後見人を選任する。相続や財産の整理、福祉サービスの利用手続きなどを行う。専門的な知識が必要なため、弁護士ら専門職が後見人になるケースがほとんどだ。
認知症の人だけでも約600万人いるというが、利用は21年末時点で約24万人と伸び悩んでいる。
背景に使い勝手の悪さがある。
利用者や家族からは「途中でやめられない」のほか、「後見人がほとんど会いに来ない」「本人や家族の意向を無視し物事を決める」などの苦情が出ているという。
これでは利用をためらう人が多いのも無理はない。
後見人の報酬額は専門職の場合はおおむね月2万~4万円とされるが、明確な基準はない。利用者側からは、額に見合ったことをしてもらっていないとの声もある。
「財産管理だけで身の回りの支援がない」と、福祉との連携不足についても指摘が出ている。
見直し案では、財産売却や相続は弁護士ら専門職が担当し、終了後は利用をやめることや、親族や福祉職が日常生活の支援を受け持つことが想定されるという。
司法と福祉の連携をスムーズにしたり、利用者の相談を受け調整したりする中核機関が必要だ。
しかし、厚生労働省のまとめでは、設置している市区町村は半数強にとどまり、本県は3月末時点でわずか7市町だ。各自治体は整備を加速してもらいたい。
研修を受け一定の知識を習得した「市民後見人」の育成にも力を注いでほしい。専門職が少ない地域もあり必要性は高まっている。
佐渡市は、13年に市民後見人の養成講座を始め、3月末時点で約80人が登録している。
佐渡市社会福祉協議会が中核機関となる「成年後見センター」を運営し、利用希望者のニーズに合った後見人を選任するなど「佐渡モデル」として注目されている。
全国の自治体からも視察に訪れるという。こうした取り組みを各地に広げていきたい。
政府は26年度の関連法案提出を目指すが、国会審議や施行までの準備期間を考慮すると、実現は数年後になる可能性が高い。
高齢化社会に伴い認知症の人が増えることが見込まれる。利用者や家族の意向を十分にくみ取った運用面での改善を速やかに実施してもらいたい。
