身勝手な論理で核軍縮への期待を踏みにじったロシアの横暴に強い憤りを覚える。
米ロなど核保有国同士の対立や、保有国と非保有国との溝がさらに鮮明となった。厳しい状況の中で、非核平和の道を粘り強く求めていかなければならない。
4週間にわたって開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、全会一致でつくる最終文書を採択できず決裂し、閉幕した。ウクライナを巡る記述にロシア1カ国が反対した。
前回2015年に続く決裂で、2回連続は1970年の条約発効以来初めてだ。
高まる核兵器使用の脅威を抑える方策を示せず、NPTの存在意義は大きく揺らいだ。被爆地の広島や長崎からも憤りや失望の声が上がっている。
最終文書案は折衝を重ねた結果、軍縮の数値目標や期限設定などは盛り込まれない弱い内容だった。合意できる機運が高まっていただけに、反対したロシアの責任は極めて大きい。
最終文書案には、ウクライナの安全保障を約束した「ブダペスト覚書」を守り、ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発の管理をウクライナに戻すよう促す記述が盛り込まれた。ただロシアを名指しした表現は削除した。
ロシアは核兵器使用をちらつかせて非保有国のウクライナへの侵攻を続けている。ザポロジエ原発周辺は砲火を浴び危機的状況だ。
ロシアは「あからさまに政治的だ」として記述に異議を唱えたが、独善的としか見えない。
会議はウクライナ侵攻などを巡り、核保有国同士が激しく衝突し、非保有国の主張は届かなかった。「核の先制不使用」の政策採用を核保有国に求める記述も早い段階で削除された。
それでも核兵器禁止条約が発効し、第1回締約国会議が今年6月に開催された事実は盛り込まれた。採択されれば、核軍縮・非拡散への一歩になると期待された。
核保有国は「使える核」と呼ばれる小型核の開発などを進め、核兵器使用のリスクは冷戦時代以降、最も高まっている。
会議では各国が危機感を持ってぎりぎりの調整を続けた。その努力を無にすることなく、核軍縮の実現に力を合わせていきたい。
岸田文雄首相は日本の首相として初めて演説し、核保有国と非保有国の「橋渡し役」に意欲を示したが、成果は得られなかった。
日本が批准していない核兵器禁止条約への対応については、NPT体制の強化が現実的だとして、慎重な立場を崩していない。
来年5月には広島で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。「核なき世界」を目指す首相は、もっと踏み込んだ行動でG7での核軍縮議論をリードする覚悟を示すべきだ。
