国会での議論も十分な説明もないまま、重要案件を一方的に決めていく。それでは国民に不信が広がっても不思議ではない。

 首相は政治への信頼が揺らいでいると自覚するのなら、速やかに臨時国会を召集し、論戦を通して説明を尽くすべきだ。

 岸田文雄首相は31日、新型コロナウイルス感染による療養期間を終えて記者会見した。

 安倍晋三元首相の国葬に関しては、「説明が不十分との𠮟責(しっせき)を受けている。実施を判断した首相として真摯(しんし)に受け止め、正面から答える責任がある」と陳謝し、国会の閉会中審査に出席する考えを明らかにした。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係についても、疑念を招いたとして「率直におわびする」と述べ、党と教団側との関係を断つと明言した。

 首相はこれまで国葬を閣議決定だけで決め、安倍氏や自民党議員と旧統一教会との関係が次々と明らかになっても、曖昧な態度を示してきた。

 国民の不信や疑問が募るのは当然で、対応は遅きに失している。国民や国会への説明をないがしろにしてはならない。

 国葬の実施を巡っては、法的根拠が不明確だと指摘されている。こうした中で、政府は国葬の費用として約2億5千万円の支出を閣議決定した。ただ、警備費や要人接遇費などは含まれていない。

 自治体や教育委員会などに弔意表明の協力を求めない方針も示したものの、国葬がどのような形で行われるのか不明な点は多い。

 旧統一教会との関係については、首相は全ての党所属国会議員を対象に調査する考えを示した。

 安倍派を中心に閣僚や党四役を含む多数の議員との接点が浮上し、世論の批判を受けて重い腰を上げた形だ。

 どのような関係があったのか、党の調査で終わりとせず、国会での解明が必要だろう。

 ほかにも政府の一方的な方針表明が国民を困惑させている。

 新型コロナウイルスでは、感染者の全数把握の見直しで地方の対応が分かれ、混乱が生じている。一方で政府は、水際対策のうち入国者上限を1日2万人から5万人に9月7日から引き上げる。

 感染が高止まりする中で、整合性が取れるのか。

 エネルギー政策でも原発の新増設や建て替えを検討する姿勢に急転換したが、会見では「可能な限り原発の依存度を低減する」としたこれまでの政府方針に変わりがないと強調した。どういう理屈なのか理解できない。

 首相は先月、新型ウイルスや米中緊張を挙げ、有事に対応するとして内閣改造を断行した。そうした危機感があるならば、しっかり国会を開き、丁寧な説明に徹する姿勢を欠いてはならない。