金額が示されない要求があまりに多い。これでは規模が際限なく膨らむ懸念が拭えない。

 国の2023年度予算で各省庁からの概算要求が締め切られ、金額の合計は一般会計で110兆円余りと、過去最大だった22年度に次ぐ規模となった。

 岸田文雄首相は防衛や少子化対策費を大幅に増やす方針で、予算は22年度を超える可能性がある。

 特筆すべきは防衛費だ。概算要求は過去最大の約5兆6千億円となり、金額を示さずに項目だけを挙げる「事項要求」は100程度に上った。最終的な総額は6兆円台半ばが視野に入る。

 防衛費は国内総生産(GDP)比で1%程度だったが、ロシアのウクライナ侵攻を受け、自民党が2%以上を念頭に増額を提言したことも大幅増の背景にある。

 気になるのは、事項要求の増え方だ。従来は米軍関連経費など数項目だった。ここまで多かったことは過去にないという。

 事項要求は政府案として固まるまで金額が明示されず、妥当性を見極められないのも問題だ。

 「増額ありき」であってはならない。政府は積算根拠をしっかりと国民に示すべきだ。

 国防の在り方に直結する重要な装備が、国会説明もないまま要求されたことも気にかかる。

 防衛省は中国、ロシア、北朝鮮に対する抑止力強化に向けて、長射程弾を含む計1000発程度のミサイルの量産化を求めた。

 これには相手領域内でミサイル発射を阻止する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に改称して保有することが念頭にある。

 しかし敵基地攻撃能力を保有すれば、軍拡競争を招きかねないとの批判は根強い。

 「イージス・システム搭載艦」の整備費も初めて要求した。技術的な問題などで中断した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の代替策となるもので、自衛艦では最大級となる。

 岸田首相は防衛力の抜本的強化を唱えている。これらの装備や計画もその中に位置付けられる。

 とはいえ具体化すれば、周辺諸国との間に緊張を生む可能性が高い。十分な議論を求めたい。

 概算要求では、物価高対策や新型コロナウイルス対策も金額を明示しないものが目立った。来年4月に発足する「こども家庭庁」も多くを事項要求とした。先行きが見通せなかったり、方向性が定まらなかったりするためという。

 しかし政治判断に委ねるだけでは無駄遣いを招きかねない。十分な精査が不可欠だろう。

 高齢化で年金や医療などの社会保障費が伸びる。国民の安心のために欠かせない予算は優先して確保してもらいたい。

 同時に、借金である国債に依存する財務体質からの脱却についても急いで検討するべきだ。