時代の流れとはいえ、デジタル教科書には課題も多い。紙とデジタル、双方の教科書の長所を慎重に見極めながら効果的な教育法を探ってほしい。
小中学校のデジタル教科書について、文部科学省は2024年度から小学5年~中学3年の英語で先行導入する。算数・数学は25年度以降の導入を検討する。
教科や学年を絞って段階的に進めるとしている。
対象を限定したのは、子どもの視力低下への懸念や、電子機器に不慣れな教員の指導力向上などの課題があるためだという。文科省の慎重な姿勢は理解できる。
文科省は学校現場でのデジタル化の遅れを踏まえ、児童生徒に1人1台、パソコンやタブレット端末を配備する「GIGAスクール構想」を進めてきた。
デジタル教科書は19年度から正式に学校で使えるようになった。21年度は実証事業を始め、学習効果や児童生徒の健康に与える影響について検証を進めた。
22年度は希望する全ての小中学校で英語版を配布した。活用の下地が整いつつあるとして、英語のみの先行導入を決めた。英語の音声を再生でき、発音の確認に役立つことなどが期待できる。
算数・数学では、画面上で図形を動かすことができ理解に役立つ。ほかの教科でも、文字や図を拡大でき図表などが見やすい。読み書きに困難を抱える児童生徒の学習にも効果的だ。
一方で、読解力を問う文章問題を紙とデジタル端末で小学生にしたところ、小学3、4年以下で紙の方が上回ることが広島大などの調査で分かった。
調査に当たった教授は「デジタルは紙に比べ、操作に気を取られ、集中しにくい」とし、子どもの成長段階に合わせ、教材を使い分ける工夫の必要性を指摘した。
子どもの健康面では文科省の21年度調査で、裸眼視力1・0未満の中学生が過去最多となった。
「スクリーンから30センチ以上目を離す」「30分に1回は目を休ませる」といった具体的な注意を促す必要があるだろう。
懸念されるのはタブレット端末を使ったいじめだ。本県を含め各地で確認されている。
小中学生の2割がアカウントを盗まれたり、架空請求被害に遭ったりするトラブルを経験したとの調査もある。
こうしたことにも丁寧に目を配り、ネット上のモラルや正しい使い方を指導してもらいたい。
現場の教員からは、画面のフリーズやエラーといった機器のトラブルが多いと指摘されている。
デジタル化に伴い業務が拡大し、教員の多忙化に拍車を掛けている面もある。
教員がゆとりを持ち、子どもたちとしっかりと向き合える環境整備も欠かせない。
