長時間の独房監禁や顔に水をかけながらの尋問など、職業訓練の名目とは懸け離れた収容施設の実態が指弾された。
少数民族に対する人権侵害は許されない。中国政府は抑圧政策を直ちにやめるべきだ。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が、中国新疆ウイグル自治区に関する報告書を発表し、少数民族ウイグル族に対する差別的で恣意(しい)的な身柄拘束は「人道に対する罪に相当する可能性がある」と批判した。
職業訓練の名目で収容した施設については、2017~19年に収容者に対する拷問や虐待、非人道的な処遇が行われていたとし、対テロ戦略の名の下に「深刻な人権侵害」が起きていると断じた。
収容経験者ら約40人に聞き取り調査し、「自由に退所したり、一時帰宅を許されたりした者は一人もいなかった」とも指摘した。
ウイグル族の人権侵害を巡っては、中国当局が報道機関の活動を厳しく制限するなどしており、実態が見えにくかった。今回まとめられた報告書は、暗部にメスを入れたものといえる。
OHCHRは中国政府に対し、恣意的な拘束を受けている全ての人を解放するよう勧告し、差別的な政策や法律の撤廃を求めた。
人権侵害をこのまま見過ごしてはならない。OHCHRが改善を要求するのは当然だ。
中国政府は、報告書は「不法かつ無効だ」と反発し、改善要求についても「完全に拒否する」との見解を表明した。
新疆自治区については経済が発展し、住民の生活も改善しているとして政策を正当化している。
それならば、中国は状況をもっと公開していいはずだ。
今年5月にバチェレ国連人権高等弁務官が自治区を視察した際は2日間の滞在で、新型ウイルス対策を理由に外部との接触を禁じる「バブル方式」の訪問だった。
外国メディアがこれまで取材ツアーで接触できたのは当局が準備した住民や収容者だけだ。
報告書の公表は再三延期され、バチェレ氏の任期満了の日になった。約40カ国から公表に反対するとの書簡が送られたという。中国側が公表を阻止しようと、圧力をかけていたとみられる。
中国はOHCHRが「(中国など)発展途上国を懲らしめようとする米国や西側の共犯者になった」と非難したが、自国に都合の悪い指摘に耳を傾けようとしない姿勢は筋違いだ。
報告書を受けて米国、英国、フランスなどは中国政府に人権侵害の即時停止を求めた。
日本政府も報告書を評価し、中国政府に透明性ある説明や具体的行動を強く求める考えだ。
各国政府は歩調を合わせて、中国に不当な人権政策を改めるよう強く迫り続けなければならない。
