安倍晋三元首相の国葬は3週間後に迫ったが、政府の説明ではまだ疑問が解消されていない。

 8日にも開かれる国会の閉会中審査で、岸田文雄首相に納得のいく説明を求めたい。

 問題の根幹にあるのは、政府が国会での審議を経ずに閣議決定で開催を決めたことへの是非だ。

 国葬がどうあるべきか、本質的な議論をしなかったことが不信を招いたことは否めない。

 閉会中審査で各党はしっかり議論し、本質に迫ってもらいたい。

 国葬の対象などを定めた戦前の「国葬令」は現行憲法の施行に伴って失効し、現在は対象の基準や公費支出の根拠が明確ではない。

 安倍氏の国葬について政府は内閣府設置法で定める「国の儀式」に当たるとして閣議決定した。

 岸田首相は、安倍氏が長年首相を務め、諸外国から弔意を伝えられていることなどを理由に挙げるが、基準が曖昧だ。

 安倍氏の功績は評価が分かれる。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関わりも明らかになる中で、国民の間では安倍氏の国葬に反対論も根強い。

 国葬を決めた理由や経緯について詳しく説明してほしい。

 首相は国葬の基準策定に否定的で、「時の政府が総合的に判断する」と説明している。

 しかしこれでは法的根拠や基準がなく、内閣の恣意(しい)的な判断を招くことが懸念される。

 全額を国費で賄うことになる国葬の費用も注目点だ。

 政府は既に会場設営費として約2億5千万円を予備費から支出すると閣議決定した。

 会場費以外は外国要人数などが定まらないため「国葬後に精査して示す」としていたが、野党や世論の批判を受けると一転して「総額は16億6千万円程度」とする概算額を公表した。

 会場費の6倍以上の額に達したが、これで全額かどうか。

 予備費は国会の承認や議決が不要なため、政権の一存で額が膨らむことも懸念される。

 国葬の企画・演出業務を、批判を浴びた「桜を見る会」の会場設営業務を担ったイベント会社が落札したことも分かった。

 入札説明会には9社が参加し、実際に入札したのは1社だった。政府は適正な手続きだったと説明しているが、不自然な点はないか、国会で確認が必要だ。

 政府は国葬当日の27日に各府省庁で弔旗の掲揚と黙とうを実施することを決めた。

 一方で国民に対しては、弔意を強制するものではないことを明確に伝えてもらいたい。

 首相は国葬と旧統一教会の問題を受けて「政治の信頼が揺らぎつつある」と語ったが、要因は国民の疑問に向き合わなかった首相にある。閉会中審査ではしっかり向き合う姿勢を示すべきだ。