同じ答弁を繰り返し、国葬開催の正当性を主張する岸田文雄首相の姿勢ばかりが目立った。納得のいく説明には程遠い。
国会は8日、安倍晋三元首相の国葬に関する閉会中審査を衆参両院の議会運営委員会で行い、岸田首相が答弁に立った。
冒頭の発言で「具体的で丁寧な説明に努める」と述べた通り、質疑に丁寧な口調で答えてはいたものの、質問に正面から答えていたとは言い難い。
焦点の一つだった法的根拠については、国の儀式を規定する内閣府設置法と閣議決定を挙げ、行政権の範囲内で行えるため、個別の法律は不要だと退けた。
国葬を決めた理由は、安倍氏の首相在任が憲政史上最長であることや戦略的外交といった政治実績などの4項目を何度も繰り返した。質問者が代わっても答弁に大きな変化はみられなかった。
釈然としなかったのは、安倍氏の国葬を決めた経緯だ。
首相は安倍氏の死去から6日後の7月14日に記者会見で国葬実施を表明し、その8日後の22日には正式に閣議決定した。
しかし国民の代表が集まる場である国会には全く説明しなかった。行政権の範囲内だとして即断即決したことが混乱を招いたことを、首相は深く反省すべきだ。
戦後、国葬が営まれた首相経験者は吉田茂氏のみで、他は内閣・自民党合同葬などだった。
歴代首相と比較してなぜ安倍氏が国葬なのか問われると、岸田首相は、海外から多数の弔意が届いているとし「礼節を持って丁寧に応えるため」と強調した。
安倍氏を巡っては森友・加計学園問題をはじめ負の側面も多くあり、国民の評価は割れる。首相はその点をどう考えたのか。
審議では、野党が国葬の基準を検討すべきだと指摘したのに対し、首相は「時々の内閣が総合的に判断することになる」と述べるにとどめた。
判断は時の政府に委ねられ、恣意(しい)的に運用される懸念がある。
総額16億6千万円程度とした概算費用のうち、警備費の8億円や接遇費の6億円などは本年度予算から支出すると説明したが、他の事業にしわ寄せはないのか。予算上問題で議論が要る。
国葬に対する国民の賛否は割れ、報道各社の世論調査でも反対が賛成を上回る状況が続く。
国葬開催が決まってから、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏の関係の深さが次々と明らかになったこともあるだろう。
自民党が8日に発表した調査結果では党所属国会議員の半数近くが教団との接点を持っていた。
党は今後、教団との関係を断つというが、安倍氏と教団との関係を調べずに、国葬とすることに矛盾はないか。党総裁として首相は国民にさらに説明するべきだ。