生活必需品が軒並み値上がりし、やり繰りに苦労している世帯にとって助けになる。

 だが場当たり的な印象が強く、給付の根拠や延長する理由が見えない。「ばらまき型」の色合いが濃く、財政規律に不安が募る。

 政府は、所得が少なく住民税が非課税になっている世帯に、1世帯当たり5万円の給付金を支給することを決めた。物価高対策の目玉で、対象は1600万世帯、全世帯の4分の1に当たる。

 岸田文雄首相は、電気やガス、食料品といった生活必需品の物価が上昇しているとして「緊急に対応する必要がある」と述べた。

 光熱費や食費が家計に占める割合は低所得世帯ほど大きい。急激な物価上昇で困惑する世帯への目配りは不可欠だ。

 政府は新型コロナウイルス対策と合わせて3兆円台半ばを予定し、9月下旬にも本年度予算の予備費から支出を決める。

 だが「5万円」とした根拠はよく分からない。給付の経緯とともに説明してもらいたい。

 9月末が期限だったガソリン価格を抑制するための補助金も、年末まで延長する。

 当初は原油価格がウクライナ危機以前の水準に戻ってきたとして、年末にかけて段階的に縮小する案が検討された。

 しかし、物価高対策を打ち出すのに補助を減らすのはおかしいとして首相が直前で待ったをかけ、現行の仕組みを維持した。

 マイカーが欠かせない地方にとってガソリンは必需品だ。補助を歓迎する人は多いものの、この枠組みを継続すれば財政措置は累計で3兆円を超える。

 原油価格高騰の緊急対策で始めた補助を、状況が変化しているのに継続するのはなぜか。首相は出口戦略をしっかり描くべきだ。

 輸入小麦の政府売り渡し価格は、パンや麺類の値上がりを抑えるため、10月以降も据え置く。

 ウイルス禍を受け、地方自治体が対策に充てる地方創生臨時交付金に6千億円を積み増す。

 広い用途に使えるが、自治体の使い道と効果に疑問符が付く例もあり、注視しなくてはならない。

 物価高対策で首相の意向が強く働いた背景で指摘されるのは、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係や安倍晋三元首相の国葬を巡り、岸田政権の支持率が低下していることだ。

 10月にはさらに看板政策の「新しい資本主義」を盛り込んだ総合経済対策を策定し、賃金上昇や経済成長を目指す。政権浮揚につなげたい首相の思惑が透ける。

 しかし政権が支持率回復を意識し過ぎれば、国民にアピールしようとして根拠の薄い政策が積み上がり、予算規模が大きく膨らむ可能性がある。

 財政規律がさらに緩まないか。国会での十分な議論を求めたい。