ウクライナが反転攻勢を強め、ロシアに制圧されていた地域を奪還している。戦況が変わりつつあるが、まだ危機は続いている。

 一刻も早い停戦の道を探りながら、国際社会は脅威の排除に向けて連携しなくてはならない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、東部と南部の約8千平方キロをロシア側から奪還したことを明らかにした。東京都の3・7倍の広さに相当する。

 東部ハリコフ州全域をほぼ奪還し、ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)や南部ヘルソン州などで反攻に転じた。

 3月に首都キーウ(キエフ)周辺からロシア軍を撃退して以来、最大の戦果を上げたことになる。

 ゼレンスキー氏は、奪還地域の半分以上でロシア側の残存勢力を拘束し、治安を安定化したと強調した。残る地域でも治安回復を進めているという。

 奪還地域では拷問されたとみられる住民の遺体が見つかるなど、数々の戦争犯罪が確認されている。国際刑事裁判所(ICC)などと連携し、非道な犯罪行為を徹底的に捜査しなくてはいけない。

 ロシアは事実上の撤退表明とみられる軍の再配置を発表した。米シンクタンクは統制の取れない形で敗走したと分析、プーチン大統領が目標とするドンバス地域の全域掌握は困難になったとみる。

 ロシア国内には、総動員令などで態勢を強化すべきだとの意見が出る一方、プーチン氏の辞任を求めるアピールも一部区議から出始めた。侵攻の長期化に伴うロシア側の動きも注視したい。

 憂慮されるのは、南部にある欧州最大のザポロジエ原発だ。原子炉6基は既に稼働を停止したが、ロシア軍の占拠が続いている。

 原子炉の冷却には電力が必要だが、一時は砲撃で外部電源が途絶えた。最悪の場合、全電源が喪失し、東京電力福島第1原発事故のような事態も想定された。

 国際原子力機関(IAEA)は戦時下の原発の安全確認という前代未聞の調査を行い、砲撃などから原発を守るため、周辺を安全管理区域にするよう国連安全保障理事会に報告した。

 グロッシ事務局長は福島事故などとは異なり、今回は「未然に防ぐ機会がある」と訴えた。

 原発職員は家族を避難させて原発にとどまり、過酷な精神的ストレスを抱えて働いている。ストレスで人為的ミスが増えれば安全性も脅かしかねない。

 チェルノブイリ事故を経験したロシアは重く受け止めてもらいたい。原発を軍事拠点化し、盾にすることは許されない。管理をウクライナに戻すべきだ。

 国連総会の新会期が始まった。元首らが演説する一般討論も3年ぶりに対面で行われる。ウクライナ情勢を好転させるため、各国は対話を重ねてもらいたい。