政府が新型コロナウイルスとの共存に向けた移行策を次々と示している。社会経済活動の維持を重視し観光政策にも力を入れる。

 しかし感染リスクは消えていない。対策は緩和されても警戒は緩めず、感染防止に気を配りたい。ウイルスとの共存をいかに図るかについても、政府は考え方を丁寧に示してもらいたい。

 観光政策では、先送りしていた全国旅行支援を今月下旬にも開始する方向で調整している。

 水際対策も緩和する。今月5万人に引き上げた1日当たりの入国者数は10月にも上限を撤廃し、外国人の個人旅行解禁も検討する。

 国内外の両輪で観光客の往来を活発化させ、景気浮揚につなげる狙いだ。苦境が続いていた観光業界を中心に期待が高まっている。

 しかし流行「第7波」は収束が見通せない。新規感染者は8月に全国で26万人を数え、減少傾向にあるが、下がりきっていない。

 往来が活発になる度に感染が拡大したことを踏まえれば、観光政策の影響は楽観できない。

 岸田文雄首相が「ウィズコロナに向けた新たな段階」として打ち出した移行策もリスクをはらむ。

 政府は今月、感染者の療養期間を、発症者は原則10日間から7日間に短縮する方針に切り替えた。

 感染急拡大により医療や公共交通など生活基盤を支える企業で業務に支障を来したためだ。

 7日目以降はウイルスの排出量がかなり減ることが背景にあるが、ウイルスの排出期間が短くなったわけではなく、専門家は「新たなエビデンス(科学的根拠)はない」と口をそろえる。

 症状がある感染者が他の人にうつすリスクは10日間の療養を終えた11日目で3・6%だが、8日目では16・0%だ。

 全感染者が対象だった発生届を高齢者や入院が必要な人に限定する「全数把握」の簡略化は、26日に全国一律で始まる。

 医療機関や保健所の事務負担が軽減される一方、療養者数が正確に把握できず、感染実態が見えづらくなると指摘されている。

 発生届の対象にならない軽症者に、突然亡くなる人が目立っていると指摘する知事もいる。

 治療や相談対応を確立し命を守る対策に力を入れねばならない。

 オミクロン株に対応した新ワクチンの接種は20日に始まる。往来が増える年末年始を見据え、年末までに接種を完了させる。

 医療体制の逼迫(ひっぱく)を起こさないために、希望者がスムーズに接種できる体制を整えてほしい。新たなワクチンだけに、副反応などの情報も丁寧に示す必要がある。

 首相はこれらを「ウィズコロナの移行策」と位置付けるが、問題なのは、どんな社会に移行させるか見えないことだ。臨時国会を早く開いて議論を深め、しっかり国民に説明しなくてはならない。