2002年に当時の小泉純一郎首相が訪朝、金正日総書記と初会談した日朝首脳会談から17日で20年になった。
両首脳は拉致と核、ミサイル問題を包括的に解決し、国交正常化を目指すとした日朝平壌宣言に署名したが、いまだに一つも履行されていない。
日本政府は全ての拉致被害者を一日も早く帰国させ、日本海を「平和の海」にするため、北朝鮮との交渉の再開へ力を尽くさなければならない。
◆不誠実な「解決済み」
20年前、会談で金総書記は日本人拉致を認め、謝罪した。日本の「でっち上げ」としていた態度を一変させた。
ただ、「5人生存、8人死亡」との宣告は日本に大きな衝撃を与えた。
会談のおよそ1カ月後に、柏崎市の蓮池薫さん(64)、祐木子さん(66)夫妻や佐渡市の曽我ひとみさん(63)ら5人が帰国した。それ以降、一人の帰国も実現していない。
1977年に新潟市で拉致された横田めぐみさん=失踪当時(13)=は「死亡」とされ、北朝鮮は自殺したと主張した。
しかし、死亡診断書はずさんなものだった。「遺骨」として提出された人骨はDNA鑑定の結果、別人のものと判明した。
北朝鮮は拉致問題を「解決済み」とし、再調査に応じない姿勢をみせる。不誠実な対応は到底受け入れられない。
20年前の平壌宣言は「不幸な過去を清算し、懸案事項を解決」することが「地域の平和と安定に大きく寄与する」との共通認識を確認した。
その上で、拉致や安全保障上の問題を解決し、国交が正常化すれば、日本側が経済協力するとしている。
国交のない国との合意文書としては画期的なものだった。
しかし、日朝交渉担当の北朝鮮の大使は、会談から20年に当たり発表した談話で、日本が制裁で「白紙状態」にしたと主張、「不純な政治目的実現に悪用した」と指摘した。
日朝交渉が停滞したのは、北朝鮮が拉致問題と向き合わず、核・ミサイル実験を繰り返したことへの日本側の反発や、国際的な非難による。
北朝鮮の言い分は的外れと言うほかない。日朝関係を動かすためにも、両国は宣言の原点に立ち返るべきだ。
まずは誠実に話し合うことが解決に向かう前提だ。2014年のストックホルム合意でも「日朝平壌宣言にのっとる」と踏襲されている。
◆主体的な交渉進めよ
めぐみさんの帰国がかなわぬまま、父滋さんは20年に87歳で亡くなった。母早紀江さん(86)は進展が見えない現状に「なぜ動かないのかと、いら立っている」と憤りを募らせる。もはや一刻の猶予も許されない。
来月には、5人の帰国から20年になる。蓮池薫さんと曽我さんは8月、佐渡市でそろって講演し、曽我さんと一緒に拉致された母ミヨシさん=失踪当時(46)=らの帰国を訴えた。
周囲は「北に残る被害者が帰ってこなければ、帰国した彼らの拉致問題も終わらない」と心境を推し量る。事態を膠着(こうちゃく)させたままにしてはならない。
日本はこれまで、国際社会に理解を求める姿勢が顕著だった。安倍晋三元首相の意向を受けたトランプ前米大統領は、18年の米朝交渉で金正恩総書記に拉致問題を提起したものの、合意文書への記述は見送られた。
日本はもっと主体的に交渉を動かさねばならない。
岸田文雄首相は「条件を付けずに金総書記と向き合う決意だ」との姿勢を示す。言葉だけでなく、拉致被害者全員の早期帰国を実現するため行動に移し、全力を挙げてもらいたい。
日本は拉致被害者の帰国を最優先と位置付ける。北朝鮮側の要求について慎重に見極める必要があるだろう。
解決の糸口を探るためにも、平壌宣言に基づいて交渉を進めなければならない。
