現代美術による地域づくりは、20年以上の時を経てすっかり定着した。作家と住民、スタッフらの努力の成果だ。さらに磨きをかけ、より地域活性化につながるイベントとして発展させてほしい。
「大地の芸術祭」が妻有地域と呼ばれる十日町市と津南町を舞台に開かれている。山あいの集落の空き家や廃校、里山の棚田などに300点以上のアート作品が展示される一大イベントだ。
2000年から3年に1度開かれ、今回が8回目となる。新型コロナウイルス感染拡大で1年延期されての開催となっている。
開催期間は従来、7~9月の約50日間だったが、今回は4月29日~11月13日の145日間に及ぶ。「密」を避け人出の分散を図るためで、季節による風景や作品の変化も楽しめるようになった。
検温スポット設置や、体調に問題がないことを示すリストバンドの配布などの仕組みが導入された。感染禍に対応した新たな試みだ。訪れる際は十分に気を付け、多彩なアート鑑賞を楽しみたい。
大地の芸術祭は、平山征夫知事時代の県の地域活性化施策「里創プラン」の事業として始まった。
初回から多くの来場者があり、その成功は全国の地域芸術祭の先駆けとなった。
アートディレクターの北川フラム氏をはじめとしたスタッフや国内外の作家、ボランティア、行政職員らに加え、地域住民の力が大きかった。
アートと地域活性化がどう結びつくのか、当初は疑問を抱く住民も多かったが、作品作りの支援などを通じて協力の輪は広がった。
来場者は前回18年に過去最高の約54万8千人を記録し、今回は9月4日時点の速報値で約40万人を数える。前回の経済波及効果は約65億円と算出されている。
ウイルス禍の今回は難しいが、それまでは外国人の入場者やボランティアも増えていた。ウイルス収束後の訪日外国人の誘客にも期待したい。
人口減少は止まらないが、地域を訪れる交流人口や地域づくりに関わる関係人口の拡大に芸術祭が大きな役割を果たしていることは間違いない。実際、芸術祭をきっかけにした移住者もいる。
過疎が進む山あいの豪雪地に、外部の人を温かく受け入れる文化が醸成された。大地の芸術祭が開催される地としてイメージアップや知名度向上につながり、住民に「誇り」も生まれている。
今回は作品が中学生に壊される残念な出来事もあった。ただこの事態に作家は「誰でも若いうちはちょっとした失敗をするもの」と中学生を擁護するメッセージを発信し、修復した作品を8日から公開している。
ロシアの侵攻を受けるウクライナにゆかりのある作家の作品も展示されている。世界のつながりを表現したという塔や石をパンに見立てた作品などで、平和の大切さを感じさせる。
芸術は人の心を動かす。作品に間近で触れ、作家の思いにも考えを巡らせながら、芸術の秋を堪能してもらいたい。
