国家の支柱を失った国民の悲しみは深く、喪失感は大きい。英国は新たな時代をどう築くのか。

 在位70年にわたり、英国の歴代君主で最長だったエリザベス女王が死去し、新国王にチャールズ3世が即位した。

 19日に営まれる国葬には天皇皇后両陛下や、バイデン米大統領ら各国の要人が参列する。

 女王は、第2次世界大戦後の英国の安定と国民統合の象徴として、絶大な人気と尊敬を集めた。

 一般弔問に訪れた人々が長蛇の列を作った。いかに国民に愛されていたかが分かる。

 戦後の和解にも力を注いだ。植民地の相次ぐ独立で英国の退潮が鮮明になり、経済停滞に苦しむ中でも、社会の一体感を保つことに心を砕いた。新型コロナウイルス禍では「団結すれば克服できる」と談話を出し国民を鼓舞した。

 「外交官」の顔も持ち、世界120の国と海外領土を訪れた。

 女王の座にあぐらをかくことのない精力的な姿勢が、国民に支持されたのだろう。

 ダイアナ元妃が不慮の事故で死亡した1997年、女王は沈黙を保ち批判された。王室廃止論が起き、この反省から「開かれた王室」への転換を図った。

 新国王のチャールズ3世は「生涯を通じ忠誠心と敬意、愛情を持って仕える」と国民に演説した。

 心配されるのは、現在のカミラ王妃との不倫がダイアナ元妃との離婚原因の一つになったと、国民の感情に残っていることだ。新国王の支持率は5割前後で、8割以上だった女王に及ばない。

 英国の君主は「君臨すれども統治せず」が原則で、女王は政治的中立を守った。新国王は環境問題などで積極的に発言しており、政治介入を懸念する声もある。

 英国はイングランドやウェールズなどの連合王国だ。旧植民地などでつくる英連邦のカナダのように、国王を国家元首としている国もある。独立や君主制からの離脱の動きがある中で、王室の安定と求心力の維持が課題だ。

 女王のようにさまざまな場に出向き、国民の声に寄り添う国王になってもらいたい。

 女王が死去する2日前に任命され、英史上3人目の女性首相になったリズ・トラス氏も前途多難の船出だ。10%超の記録的なインフレやウクライナ危機にどう対処するか、手腕に注目したい。

 首相は物価高への支援策として、電気・ガス料金に上限を設けた。大型減税も実施する方針だが、十分な財源が示されず、財政悪化の懸念から通貨ポンドは対ドルで85年以来の安値を付けた。

 外交では前首相の路線を継承し、ウクライナへの支援継続とロシアへの対峙(たいじ)を鮮明にした。

 望まれる欧州の平和と安定のために国際社会と連携し、一刻も早い停戦に向け力を注いでほしい。