障害の有無にかかわらず共に学び、地域社会で生活できる環境整備を進めるよう促された。政府は指摘を重く受け止め、改善につなげてほしい。

 国連の障害者権利委員会が、8月に実施した日本政府への審査を踏まえ、障害者政策の改善点について勧告を発表した。

 障害児を分離した特別支援教育の中止を要請したほか、精神科の強制入院を可能にしている法令の廃止を求めた。

 勧告は、障害者の差別を禁じ、社会参加を促す障害者権利条約に基づくもので、日本への勧告は2014年の条約締結後初めてだ。勧告に拘束力はないが、尊重することが求められる。

 特別支援教育については、障害児の分離教育が長く続いている点を懸念し、障害の有無に関係なく学ぶ「インクルーシブ教育」に関する国の行動計画の作成を求めた。通常学校が入学を拒めないようにする措置も要請した。

 特別支援学校に通う人は増え続け、21年度は10年前の約1・2倍、小中学校の特別支援学級では約2・1倍に上っている。

 発達障害の早期発見が進んだことや、保護者の意向もあるが、行政から勧められたり、普通学校で十分な支援が受けられなかったりする状況が背景にある。

 中には普通学校で学ばせたくても、いくつも理由を挙げられ断られた事例もある。

 権利委員会の幹部は「インクルーシブ教育は将来、障害者が地域の中で生活することにつながる」と意義を強調する。

 ただ、実現には課題も多い。教育現場では人手不足が深刻だ。教員数を増やし、障害に関する研修を充実させる必要がある。親や地域への啓発も欠かせない。

 国は行動計画を速やかに策定し、明確な道筋を示すべきだ。

 精神科医療を巡っては、患者の強制入院や隔離・拘束が広く行われている。虐待事件も絶えず、「人権侵害」との批判が根強い。

 条約は「いかなる場合でも自由の剝奪が障害を理由に正当化されない」と定めている。施設から社会に出て生活する「地域移行」は国際的な流れだ。

 厚生労働省は強制入院の制度を縮小する方向で検討したが、今年6月にまとめた報告書には盛り込まなかった。家族の依頼で多くの患者を引き受けてきた病院団体の反発があったためとみられる。

 関係者の理解を得ながら課題を解消し、地域移行の仕組みを着実に整備したい。

 勧告は、16年に起きた相模原市の障害者施設殺傷事件にも言及している。日本社会の優生思想や能力主義に起因しているとして、事件の検証を求めた。

 入所者ら45人が殺傷された悲劇を風化させてはならない。検証から改めて教訓をくみ取りたい。