戦火をさらに広げ、犠牲者を増やす事態は許されない。
ウクライナ侵攻を巡り、ロシアのプーチン大統領は、部分的な動員を可能とする大統領令に署名したと表明した。軍務経験のある予備役が動員されることになり、30万人規模になる。
侵攻長期化でロシア軍の損失が大きく、ウクライナ東部や南部で反攻されている。予備役動員は劣勢打開を図る狙いがあるという。
動員令をきっかけに、ロシアでは全国規模の抗議デモが起きた。国外脱出のための片道航空券を求める人が多数いる。
抗議デモは、侵攻当初以来だが、当局は千人以上を拘束して弾圧を強めている。デモがプーチン政権を揺さぶるかは見通せない。
ロシア上院は兵役忌避や命令不服従を厳罰化する刑法改正案を可決した。ロシア国内でも国民への圧力が強まる危惧がある。
さらに懸念されるのは、ロシアが大部分を制圧したウクライナ東部や南部の計4州で、実効支配する親ロシア派が、ロシアへの編入を求める住民投票の実施を一方的に宣言したことだ。
住民投票が行われれば編入は確実だ。編入されると4州での攻撃はロシアへの攻撃と解釈できる。
プーチン氏も住民投票を支持し、「領土保全が脅かされれば、あらゆる手段を講じる。はったりではない」とし、核使用の選択肢も排除しない。
ロシアは2020年公表の軍事ドクトリンで、通常兵器を用いたロシアへの侵略で国家が存立の危機にひんした場合は、核使用に踏み切ることができるとしている。
4州を強引に自国領土に組み込み、領土防衛の根拠を得ようとする強権的な手法は見過ごせない。
ウクライナのゼレンスキー政権は住民投票を違法とし、対象地域の住民に抵抗を呼び掛けている。4州で激しい戦闘が続くことも予想され、今後が気掛かりだ。
動員令や住民投票の動きは、プーチン氏の焦りの表れだとの見方や、停戦交渉で有利な環境をつくるためとの観測も出ている。
プーチン氏と会談したインドのモディ首相は「今は戦争の時代ではない」と、早期停戦を促した。
中国も侵攻長期化への懸念を伝えたとみられ、微妙に距離を取り始めたと伝えられる。
プーチン氏は友好国の意見を受け止めなくてはならない。
米ニューヨークで開かれている国連総会の一般討論では、岸田文雄首相が「核兵器による威嚇、ましてや使用は深刻な脅威だ。断じて受け入れられない」と、ロシアを名指しで批判した。
バイデン米大統領やトラス英首相も、ロシアを強く非難した。
ウクライナでは原子力発電所への攻撃も続いている。国際社会は結束を強くし、プーチン氏の暴挙を止めねばならない。
