地域に根差した金融機関の新たな取り組みだ。小規模事業者の経営を支えて地元の産業振興を図るとともに、地域住民の暮らしを守る役割を果たしてもらいたい。

 魚沼地域を基盤とする塩沢信用組合(南魚沼市)が2023年9月に名称を「ゆきぐに信用組合」に変更し、営業地区を長野県栄村などに拡大することになった。

 信組が合併を伴わず、県境をまたいで営業地区を拡大するのは珍しい。財務基盤の安定を背景に、拡大は将来的な経営の発展につながると判断した。

 営業地区は小千谷市、松代、松之山を含む十日町市全域などにも拡大する。小野澤一成理事長は「松代、松之山、栄村は金融空白地帯といわれる場所も多く、住民の生活を支える」と狙いを話す。

 信組は銀行などと異なり、営業エリアを定款に記載する。顔の見えるきめ細かな業務で、組合員の生活や地域経済を発展させていく責任がある。

 塩沢信組は新たな営業地区で、業務内容を絞ったサテライト型店舗の設置や、公的施設の空きスペースでの出張窓口開設などを検討している。

 津南町に隣接する栄村の人口は約1600人だ。農協や郵便局(ゆうちょ銀行)以外の金融機関は存在しない。

 中山間地で住民の多くを高齢者が占める。電子決済などのデジタル対応が苦手な人もいるだろう。交通手段が限られ、自力で金融機関に行くのも容易ではない。

 住民に寄り添ったサービスが求められるのは当然だ。新名称の「ゆきぐに」に込めた相互扶助の精神を発揮してほしい。

 金融機関を取り巻く環境は厳しい。人口減や低金利が収益を圧迫し、ウイルス禍や原材料高は取引先に悪影響を及ぼしかねない。

 県内10信用組合の22年3月期決算をみると、取引先の業績悪化に備えて与信関連費用を積み増すなどしたため、5信組で純利益が減益となった。

 ウイルス対策で実施した実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」は資金需要が一巡し、借り入れた事業者の返済が本格化する。

 資金繰りが厳しくなれば、経営破綻が懸念される事業者もある。

 中小零細事業者と接する機会が多い信組には取引先の経営自体を改善する本業支援も不可欠だ。

 一方で「オーバーバンク」と呼ばれる状態の県内の金融機関も、合理化を避けて通れない。

 はばたき信組(新潟市江南区)と三條信組(三条市)は、23年12月をめどに合併することで合意した。既に21年1月、地銀2行が合併して第四北越銀行(新潟市中央区)が発足している。

 選ぶ手段は違っても、住民の利便性向上を目的に、地域を支える金融機関として共存共栄の道を探ってもらいたい。