体の痛みを訴え、助けを求めていたのに職員は何もしなかった。入管は人命軽視とも取れるずさんな対応を深く反省し、再発防止を徹底すべきだ。

 茨城県牛久市の東日本入国管理センターで2014年3月、カメルーン国籍の男性が収容中に死亡したのは体調不良を訴えたのに入管側が放置したためだとして、遺族が国に損害賠償を求めた訴訟の判決が水戸地裁であった。

 地裁は「命に関わる可能性があり、救急搬送するべきだった」と入管側の注意義務違反を認め、賠償の一部支払いを命じた。

 原告は「国に注意義務違反があったと認定したのは画期的だ」と評価した。国は判決を重く受け止めなければならない。

 男性は13年10月に成田空港で入国を拒否され、東日本入管に収容された。糖尿病などを患い、監視カメラのある休養室へ移された。

 その後、「アイムダイイング(死にそうだ)」とうめき声を上げたり、胸の痛みを訴えたりしたが、職員は床に寝かせたままにした。翌日、心肺停止状態になっているのを職員が発見し、搬送先の病院で死亡が確認された。

 あまりに痛ましく、入管が何ら手当てもせずにいたことに強い憤りを覚える。判決が「適切な措置をしていれば、生存した可能性もある」と批判したのは当然だ。

 裁判で国は「職員には医学的知識がなく、救急搬送するべきか判断できなかった」「搬送したとしても助かったとは限らない」と反論した。人命を預かっているという自覚が乏しいのではないか。

 男性が死亡した経緯をまとめた法務省の報告書では、常勤医の確保や収容者の容体に応じて臨機応変に対応できる体制づくりの必要性が盛り込まれた。

 それにもかかわらず、21年に名古屋出入国在留管理局の施設に収容中のスリランカ人女性が体調の異変を訴えながら死亡した。救急搬送しなかったことなど、教訓は生かされなかった。

 研修などを通して職員の意識改革を図る必要がある。収容者がすぐに診療を受けられる体制の強化も速やかに取り組むべきだ。

 日本は難民認定に消極的だと批判され、入管施設での長期収容も人権上、問題視されてきた。

 政府は、スリランカ人死亡問題や、ロシアの侵攻を受けたウクライナ避難民への対応を踏まえ、入管法を改正し、外国人の収容や送還のルールを見直す方向だが、作業は難航し、10月召集の臨時国会への法案提出は見送る方針だ。

 入管法改正案は昨年の通常国会にも提出されたが、難民認定申請者の扱いなどの問題で与野党が対立し、廃案となった。

 人命、人権の尊重を最優先に法案をまとめ、国会審議を急ぐべきだ。これ以上放置しては、怠慢のそしりを免れない。