1972年に本県出身の田中角栄首相と中国の周恩来首相が、北京で日中国交樹立の共同声明に調印して、きょう29日で50年を迎えた。
国交正常化を果たしてから半世紀、いまほど両国の政治的関係が厳しく冷え込んだことはなかったに違いない。節目にもかかわらず、祝賀ムードに乏しいのは残念だ。
当時の自民党内には台湾関係を重視する声も強かった。田中氏は命を懸けて交渉に臨んだという。歴史的成果を挙げることができたのは、両国首脳にアジアの平和と繁栄を願う強い意思があったからにほかならない。
共同声明には「相互に善隣友好関係を発展させることは、両国国民の利益に合致し、アジアにおける緊張緩和と世界の平和に貢献するものである」との文章が盛り込まれている。
日中両政府は、この原点に立ち返るべきだ。それには停滞している対話と交流を推し進めていく以外に道はない。
◆関係再構築図らねば
中国は日本の支援も受けて経済成長を遂げ、米国に並ぶほどの大国となった。最近は覇権的な姿勢を強め、軍事的な緊張を招いている。
8月上旬には、ペロシ米下院議長が台湾を訪問した対抗措置として、日本の排他的経済水域(EEZ)と重なる海域で軍事演習を強行し、EEZ内にミサイルを落下させた。
台湾統一を目指す中国の習近平指導部は、武力行使も排除しない構えだ。軍事演習は台湾有事を念頭に置いた日米の介入をけん制したものとみられる。
日本政府が2012年に国有化した沖縄県・尖閣諸島周辺では、中国海警局の船による領海侵入が常態化している。尖閣は台湾に近く、偶発的衝突の恐れが強まっている。
習氏は10月の党大会で、異例の共産党総書記(国家主席)3期目続投が確実視されている。
こうした状況を反映し、本社加盟の日本世論調査会による世論調査では、今後の日中関係が「悪くなる」との回答は、「どちらかといえば」を含めて計89%に上った。
理由は「米国と中国の覇権争いが激しくなり、日中間の緊張も高まると思うから」が最も多く、半数を超えた。
日中関係をどう好転させていくか。岸田文雄首相の対中姿勢が問われている。
岸田政権は「防衛力を抜本的に強化する」として防衛予算を大幅に増やす方針だ。
相手領域内でミサイル発射を阻止する「敵基地攻撃能力(反撃能力)」への転用を念頭に、中国沿岸部に届く長射程ミサイルの量産化も掲げる。
殊更に危機感をあおり、力による対立を誘発するような事態は避けねばならない。
求められるのは、首脳同士が率直に話し合いを重ね、信頼を醸成しながら日中関係の再構築を図っていくことだ。
両国首脳の対面による正式会談は、新型コロナウイルス感染流行の影響もあり、3年近く途絶えている。
日本は、中国と歴史や経済、文化などさまざまな面で結びつきが強い。岸田政権は米国に追随するばかりではなく、独自の外交手腕を発揮すべきだ。
◆地方から友好を発信
日本海に面する本県は、田中氏が日中国交の道を切り開いて以降、官民で中国、特に東北部との交流を深めてきた。
亀田郷土地改良区の故佐野藤三郎理事長らは1970年代から90年代にかけて、黒竜江省などを度々訪れ、三江平原の開発に尽力した。
これを機に新潟市とハルビン市、県と黒竜江省がそれぞれ友好関係を締結した。
国内最後のトキの生息地となった佐渡での保護・繁殖事業では、中国からトキの提供と繁殖技術の協力を受け、念願の野生復帰を実現した。
歴史認識や領土問題などを巡ってぎくしゃくすることが多かった両国関係の中で、地方レベルの交流は着実に成果を挙げ、友好の礎となってきた。
新型ウイルスの感染拡大は、市民レベルの交流の機会を大きく制限した。
だが、日中の懸け橋になろうと県人や県内在住の中国人が語学学習や就労の機会提供などで活動しているのは心強い。
どんな逆風下にあっても、友好のメッセージを発し続けていきたい。それが先人たちから託された私たちの責務だ。
