医療機関の事務手続きが簡略化して現場の負担が軽減した一方、感染動向を正確に把握することが難しくなった。
自宅で療養する軽症者に対しても、必要な場合には取りこぼすことなく、命を守る適切な医療につなげてもらいたい。
政府は新型コロナウイルス感染者について、氏名や性別などを記載した発生届の提出を医師に義務付ける「全数把握」を、全国一律で簡略化した。
届け出が必要な対象者を、65歳以上や入院が必要な人、重症化リスクが高く薬や酸素の投与が必要な人、妊婦に限定する。
感染者の8割を占める若い軽症者は届け出が不要になる。発生届の報告対象から外れた人は、都道府県が設置した支援施設に自ら登録し、自宅療養を始める。
本県では、県と新潟市が開設した「陽性者登録・フォローアップセンター」が支援する。対象外の人が自己検査や医療機関の受診で陽性が判明したら、インターネットなどを通じて登録する。
本人以外の家族らが電話で登録することもできるが、全員が登録するかは未知数だ。国や県は新たな仕組みを周知徹底し、協力を呼びかけなくてはいけない。
陽性者自身が仕組みを理解し、漏れなく登録しないと、感染の実態がつかめなくなる恐れがある。
簡略化に伴い、県は市町村別の新規感染者数や感染者集団(クラスター)を発表しなくなった。
居住地域の感染状況が分からず不安に思う人もいるだろう。地域の流行状況に合わせて警戒できるよう、市町村別の数を把握する仕組みも検討してほしい。
自宅療養中の軽症者の容体が急変した場合、救急搬送先を円滑に決めるための対応方針も国は示してもらいたい。
軽症者は自身の健康管理に留意する必要がある。希望すればセンターは血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターを貸し出し、自宅に食料品を送る。
簡略化は医療機関の事務負担軽減を目的に、全国知事会や日本医師会などが求めていた。
医師からは「事務作業の負担が減り、体力的に楽になった」との声が上がる一方、「診察し、必要な医療につなげる過程に変わりはない」との見方もある。
冬にかけて感染「第8波」やインフルエンザとの同時流行も懸念される中、医療提供体制の逼迫(ひっぱく)を防ぐには発熱外来や医療スタッフを充実させることが求められる。
10月11日から政府は「Go To トラベル」に代わる全国旅行支援を実施、水際対策を緩和して入国者数の上限規制を撤廃する。
地域経済の浮揚を図る狙いは分かるが、まだ感染は収束していない。簡略化で実態が分かりにくくなったことを肝に銘じ、なおのこと感染防止に気を配りたい。
