首相が「安全運転」で従来の答弁を繰り返していては、論戦は空疎になるだけだ。
所信表明で「国民の厳しい声にも真摯(しんし)に、謙虚に、丁寧に向き合っていくと誓う」としたが、誓いを守っているとは言えない。
国会は衆参両院で代表質問が行われ、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関わりや国葬などを巡って、各党が岸田文雄首相をただした。
立憲民主党の泉健太代表は4日、報道で旧統一教会側との接点を指摘されるたびに「後出し」で事実関係を認めてきた山際大志郎経済再生担当相について、首相に更迭する意思があるか追及した。
教団側との関係を詳しく語っていない細田博之衆院議長には、議長席を何度も振り返り、「しぐさで答えてほしい」と求める異例の「直接質問」を試みた。
これまでの政策提案路線を切り替え、追及型で迫った。
立民の西村智奈美代表代行は泉氏の質問を掘り下げる形で、選択的夫婦別姓や同性婚に反対する旧統一教会が政策決定に影響を与えた可能性や、教団が名称変更した際に当時の下村博文文部科学相の関与があったか問うた。
首相は、山際氏の更迭には正面から答えず、「自らの責任で丁寧に説明を尽くす必要がある」と述べるにとどめた。
政策決定への教団の影響は「さまざまなプロセスを経て決定しており、指摘は当たらない」とかわし、下村氏については「関与はなかった」と否定したが、いずれも根拠は示さなかった。
調査する姿勢も見せずに結論付けるだけでは、謙虚さがうかがえない。国民の疑念も拭えまい。
今国会では野党第1党の立民と第2党の日本維新の会が共闘することで一致した。対抗勢力として力を発揮できるか注視したい。
首相は5日、維新の馬場伸幸代表の質問に、年末に予定する国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定で、閣議決定前に党首間での議論を検討する考えを示した。
国葬についてはルールづくりで「国会で党派を超えて議論し、国民各層の幅広い理解を得られるよう努める」と付け加えた。
国の根幹に関わる重要事項を政権が独断で決めるのではなく、国民の代表である国会に丁寧に説明して決定するのは当然だ。
ここへ来て、首相を巡る疑問も浮上した。首相は4日、長男を秘書官に起用する人事を発表した。
代表質問でも問われ、首相は「適材適所の観点から総合的に判断した」と型どおりに答えた。
優秀な人材だとしても、世襲を前提にしているかのような起用は時代錯誤だと野党は批判している。説明があっても国民の理解は到底、得られまい。
政権を十分監視し、追及できるか。野党も真価が問われている。
