国家権力の妨害にひるむことなく、人権侵害を粘り強く告発してきた活動がたたえられた。

 平和を脅かし、自由を抑圧する強権政治は許されないとのメッセージをしっかり受け止めたい。

 今年のノーベル平和賞が、ウクライナの「市民自由センター」(CCL)、ロシアの「メモリアル」の両人権団体と、ベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキ氏の1個人2団体に決まった。

 ノルウェーのノーベル賞委員会は「人権、民主主義、平和共存の傑出した擁護者」だと高く評価し、「国家間の平和と友愛という、今日の世界が最も必要としているビジョンに再び力を与えている」と授賞理由を挙げた。

 ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領を厳しく批判するとともに、プーチン氏と親しく「欧州最後の独裁者」と称されるベラルーシのルカシェンコ大統領にも圧力を加えた。

 ノーベル賞委員会が強権政治に対し、断固とした姿勢を発信した意義は大きい。両氏は警鐘として重く受け止めるべきだ。

 CCLは2007年に創設され、ウクライナ侵攻でロシア軍による多数の民間人殺害が指摘された首都キーウ(キエフ)近郊などでの証言を収集した。記録した人権侵害は1万8千件を超える。

 メモリアルは1987年にノーベル平和賞受賞者アンドレイ・サハロフ博士(故人)らが創設し、旧ソ連時代に弾圧された犠牲者の記録を残すなどして人権擁護に取り組んできた。

 ビャリャツキ氏は人権団体「ビャスナ(春)」の代表として、ルカシェンコ氏に抵抗して民主化運動を展開してきた。投獄された政治犯らをホームページに掲載し、不当な拘束だと訴えてきた。

 受賞決定者に共通するのは、人権抑圧の実態を見つめ、掘り起こしてきたことだ。市民レベルで活動を続け、危険を顧みずに不当な権力や侵害に抵抗してきたことに敬意を表したい。

 メモリアルは今年4月にロシア最高裁の命令を受け解散した。ビャリャツキ氏は現在当局に拘束されている。

 今回の選考は、受賞決定者だけでなく、各国の人権保護活動を力強く後押しするものだ。

 メモリアル幹部は「新たな場所で活動するロシアの同僚を勇気づける」と歓迎し、CCLは人権活動が注目され、より活発になることを期待した。

 強権支配は中国やミャンマーなどでも進み、反体制派や少数民族の人権が抑圧されている。この状況を克服していくには、自由の実現を求める市民活動の広がりが欠かせない。

 「市民社会が専制と独裁に屈服する時、次は平和が犠牲になる」。ノーベル賞委員会委員長が述べた言葉を深く胸に刻みたい。