市民への無差別攻撃は断じて許されない戦争犯罪だ。エスカレートする蛮行に強い憤りを覚える。

 核使用の恐れも現実味を増している。国際社会は「報復」や「領土」防衛を口実にした暴走を何としても止めなければならない。

 ロシア軍がウクライナ全土をミサイルで一斉攻撃した。10日は首都キーウ(キエフ)を含む20都市以上に向けて80発超を発射し、11、12日も攻撃を続けた。

 10日の攻撃は2月24日の侵攻開始以降、最大規模とみられる。市民ら計20人以上が亡くなり、100人超が負傷した。商業施設やインフラ施設なども破壊された。

 ロシアは軍やエネルギー関連施設を狙った攻撃だと主張しているが、実態とかけ離れ、到底受け入れられない。

 先進7カ国(G7)首脳は、オンライン形式の緊急会合を開き、声明でロシアによる一斉攻撃を「最も強い言葉」で非難した。当然の対応であり、結束してウクライナを支えたい。

 ロシアが一斉攻撃をしたのは、8日のクリミア橋爆発を「ウクライナによるテロ」と断定し、その報復と位置付けたためだ。

 プーチン大統領は、ウクライナ側をテロ組織と呼んで攻撃の強化を正当化している。あまりに独善的というほかない。

 クリミア橋は、ロシアが2014年にクリミア半島を併合した後に建設された。ロシアにとってはクリミア支配の象徴であり、物流の大動脈でもある。

 だが、ウクライナをはじめ、国際社会はクリミア半島をロシア領土と認めていない。

 クリミア橋の爆発がウクライナ側による攻撃だとしても、それを招いた元凶は、ロシアが力による現状変更でクリミア併合を強行したことにある。

 ロシア側は今回の攻撃による戦果を誇示しているが、その裏側には焦りもあるとみられる。

 最近のウクライナ側の反転攻勢で、ロシア軍は東部の州を奪還されるなど失策が続く。9月に東部と南部の4州をロシアに併合したとはいえ、国内では作戦遂行への批判が高まっている。

 今回の攻撃について、米欧では戦況を左右するほど影響を与えるものではないとの見方が広がっている。ロシア軍は貴重な戦力を消耗したとの指摘もある。

 こうした中で最も懸念されるのは、ロシアが劣勢をはね返すため、世界を脅かす最悪の選択を取ることだ。プーチン氏は「領土」防衛の手段として、核使用の可能性をこれまで度々示唆してきた。

 岸田文雄首相はG7の会合で「核兵器の威嚇も使用もあってはならず、ウクライナを新たな被爆地にしてはならない」と訴えた。

 誤った行動をさせないために、国際社会は一層の危機感を共有し、事態打開の道を探ってほしい。