法に曖昧さが残り、恣意(しい)的に運用される懸念が拭えない。国民の権利が侵害されないよう注視しなくてはならない。
自衛隊基地や原発といった安全保障上重要な施設の周辺や、国境付近の離島などを対象とする「土地利用規制法」が全面施行した。
政府は11日には、「特別注視区域」や「注視区域」として、計58カ所の候補地を提示した。北海道や島根、長崎など5都道県、10市町に上った。
候補地は、有識者らでつくる審議会と地方自治体の意見を聞き、大半が第1弾の対象区域として早ければ年内にも指定される。
政府は数年かけて計600カ所以上を指定していく考えだ。
施行により、土地所有者の調査のほか、施設の機能を妨害する行為への中止勧告や罰則付きの命令が可能になった。
特に重要度が高い特別注視区域では、国の調査に加え、一定面積以上の売買には事前の届け出が義務化された。
2008年に長崎県対馬で韓国系企業による海上自衛隊基地周辺の土地取得が表面化した。その後も外国資本の買収事例が続き、安全保障上の脅威になるとされた。
法制化には、南西諸島付近で中国が軍事活動を活発化させていることも念頭にある。
一方、調査を名目に国の監視が強まり、国民の自由や権利が侵害されるとの懸念は依然強い。
法案段階での国会審議でも、米軍基地周辺のデモといった市民活動が妨害行動と見なされかねないとの声が上がっていた。
政府は全面施行に先立って運用に関する基本方針を示し、「国民の自由や権利の尊重と安全保障の確保の両立を図ることを大前提」とすると明らかにした。
方針には、自衛隊や米軍基地周辺にある私有地での集会開催は規制しないと明記したが、公道上など私有地以外での集会やデモはどうなるのか。
妨害行為には、施設機能に支障を来すレーザー照射や妨害電波の発射、工作物の設置などを挙げた。しかし、例示した以外でも妨害行為になり得るとも記した。
当初、法の見直しは5年経過後としていたが、安保情勢を巡る情勢が著しく変化した場合は、5年を待たず見直すことに転換した。
政権の運用次第で妨害行為や対象範囲が拡大しかねず、国民の不安は解消されない。政府は丁寧に説明する努力が求められる。
本県は東京電力柏崎刈羽原発や自衛隊の駐屯地などが立地しており、対象区域の指定を受けることも考えられる。
政府や自治体は住民の疑念にしっかりと答え、透明性を持って取り組まなければならない。
国会は、政権が都合の良いよう法解釈を変え、運用を拡大しないよう監視を強めてもらいたい。
