東京電力福島第1原発事故を踏まえて導入したルールで、厳格にした規制の象徴だったはずだ。
政権の意向に沿うかのような姿勢で、規制委の独立性が揺らぐことがないよう求めたい。
原子力規制委員会の山中伸介委員長は記者会見で、原発の運転期間を原則40年、最長60年と定めた原子炉等規制法の規定を削除する見通しを示した。
電力の安定供給や脱炭素などに向け、政府が原発の運転期間延長や新増設を検討する方針を示したことを受けての対応だ。
山中氏は「利用政策が検討される中で、規制側も法的な仕組みを整える必要がある」と強調した。
先月末の就任時には「独立性、透明性を堅持する」と断言した。それから10日もたたずに方針転換を表明したことになる。
規制委は、原発事故の反省に基づき、原発を推進する経済産業省内にあった規制当局の旧原子力安全・保安院を分離させるなどして2012年に発足した。
保安院が電力業界などに取り込まれ、骨抜きにされたことも事故の一因とされたためだ。以降、規制委は厳格な姿勢で原発の審査などに臨んできた。
政府方針に従うことが役割ではない。方針転換には「責任放棄」との批判もあることを規制委は真摯(しんし)に受け止めてもらいたい。
山中氏は「上限を決めるのは、科学的、技術的には不可能だ」とし、政策的な基準を規制委が扱うのは不適切だと主張する。
その上で、運転期間にかかわらず、老朽化した原発の安全性を個別に確認する仕組みを整えるとして「厳正な規制がゆがめられることは決してない」と説明する。
40年、60年を超えて運転しても安全だと立証する責任は電力会社にあり、運転年数が延びるほど立証のハードルは高くなる。
国内で前例がない長期運転の安全をどう確認するのか、規制委にとっても難題のはずだ。
山中氏自身も「経年劣化が進むほど規制基準に適合するかの立証は困難になる」と認めている。
経産省の見通しでは、60年で廃炉になると、国内の原発は40年代以降、大幅に減少する。政府は稼働可能な原発を増やし、電力の供給態勢を維持しようとしている。
県内では、東電柏崎刈羽原発1号機が運転開始から37年経過、2、5号機は32年経過しているが、全7基停止が10年以上続く。
政府は審査のため停止している間は運転期間に算入せず、実質的な延長も視野に入れている。
これには規制委側は「停止中も設備の劣化が進む。到底受け入れられない」と否定的だ。
国民の安全を担保するために設けたルールを、政権に都合よく、なし崩しで変えることは許されない。規制委はそのためのチェック機関であるべきだ。













