女性自衛官が受けた苦痛と無念を自衛隊全体で深刻に受け止め、猛省しなくてはならない。
「男社会」の体質を刷新しない限り、女性や若手へのハラスメントは根絶できないと、組織の一人一人が肝に銘じるべきだ。
元陸上自衛官の五ノ井里奈さん(23)が退職後に実名を公表して性被害を受けたと訴え、防衛省は内部調査の結果、ハラスメントを認めて謝罪した。17日にも加害者が直接謝罪する見通しだ。
調査によると、五ノ井さんは福島県の郡山駐屯地に所属していた当時、性的な発言や接触など日常的にセクハラを受けた。昨年8月には演習場の宿泊施設で男性隊員3人に押し倒され、腰を振るしぐさをされる性被害に遭った。
中隊長に被害を相談したが、中隊長は上司の大隊長に報告せず、その場にいた多くの男性隊員も自衛隊内の調査に証言しなかった。
五ノ井さんが退職を決めると、部隊は五ノ井さんの母親に対し、一切の異議を申し立てないとする同意書への署名を求めた。
組織全体で被害をもみ消そうとしたのは許されない行為だ。
五ノ井さんは警務隊に被害届を出し、男性隊員3人は書類送検されたが、不起訴処分になった。
今年8月、五ノ井さんがインターネット上で集めた10万筆の署名を防衛省に提出し、第三者委員会の設置を求めると事態が動いた。
郡山検察審査会は3人を不起訴不当と議決した。防衛省の内部調査では一転して行為があったと認めた隊員もいた。
陸上幕僚長は「罪悪感が欠如していた」と謝罪したが、遅きに失している。当初から真摯(しんし)に対応すれば五ノ井さんが退職する事態は避けられたはずだ。
五ノ井さんは「今後このようなことが二度とないよう根本的に改善してほしい」と涙ながらに訴えた。悔しさは察するに余りある。
宮城県出身で小学生の時に東日本大震災で被災し、遊んでくれた自衛官に憧れて入隊した。その夢を打ち砕いた責任を組織は重く受け止めるべきだ。
調査では複数の女性隊員が被害を受けていたことも分かった。
女性自衛官は今年3月末時点で全自衛官の8・3%で、自衛隊は「究極の男社会」とやゆされる。
男性でも、幹部自衛官や先輩隊員が若手隊員に暴言を繰り返したり、殴る蹴るなどの暴力をふるったりする例が後を絶たない。
防衛省内の窓口に寄せられるハラスメント相談は、2021年度に2311件と、16年度の256件から大幅に増加している。
同省は20万人超の全自衛隊に「特別防衛監察」を実施し、ハラスメント全般を調査している。実態を徹底的に調べてほしい。
有事や災害の最前線で国民の命を守る自衛隊は、人格を尊重する組織でなくてはならない。
