被害を根絶する第一歩として、実態解明をしっかり進めなくてはならない。国には速やかに対応してもらいたい。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡り、岸田文雄首相は17日、永岡桂子文部科学相に、宗教法人法に基づく「質問権」の行使による調査を指示した。

 質問権とは、文科相などの所管庁が宗教団体を調査するため、役員や関係者に質問する権限だ。文科省によると、質問権を行使した前例はない。

 質問権の行使は、宗教法人法上の違反が疑われる場合に可能となる。調査結果次第で解散命令の請求が視野に入る。

 解散命令は「著しく公共の福祉を害すると認められる行為」や「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」があった場合、所管庁が請求し、裁判所が命じる。

 首相の指示は、この日公表された消費者庁有識者検討会の報告書に沿っている。

 報告書では、教団について「社会的に看過できない深刻な問題が指摘されている」とし、解散命令請求を視野に権限行使の必要性を提言している。

 過去の解散命令はオウム真理教など2例だけで、政府内には権限行使に「信教の自由を侵しかねない」と慎重な意見が多かった。

 だが、教団の霊感商法で苦しんできた多くの人がいる事実は重い。オウム真理教の事例では、最高裁は解散命令について合憲との判断を示している。

 文化庁は専門家会議を開いて質問権行使の考え方や基準を策定する。文科相が調査内容や質問項目について審議会の意見を聞く。

 永岡文科相は年内に教団幹部らへの質問など、調査を始める段取りを想定する。

 早急に調査し、これ以上の被害拡大を防がねばならない。法律上は質問権行使の対象外とされる教団の関連団体についても、対応策を検討すべきだ。

 有識者検討会の提言は、霊感商法被害救済のための法整備や宗教2世の支援なども求めた。一刻も早く具体化してほしい。

 首相はこれまで、解散命令の請求について「法人格の剝奪という極めて重い対応だ」などと慎重な姿勢を示してきたが、提言を受けて重い腰を上げたように映る。

 内閣支持率低落の要因となっている教団問題で、局面打開を図りたい意向が垣間見える。

 忘れてはならないのは、安倍晋三元首相や細田博之衆院議長、山際大志郎経済再生担当相らと教団との関係について、いまだきちんとした説明がないことだ。

 教団が政策決定に関与することがなかったかを含め、岸田首相は政治との関係についても調査を指示し、国民の疑問に正面から答えるべきだ。このままでは政権への信頼は取り戻せない。