幼い子どもが犠牲になる痛ましい悲劇を、これ以上繰り返してはならない。幼い命を守ることができる実効性のある対策になるよう取り組んでもらいたい。
静岡県の認定こども園で、通園バスに園児が置き去りにされ熱中症で死亡した事件を受け、政府は再発防止の緊急対策をまとめた。
来年4月から、全国の幼稚園や保育所、認定こども園などのバスに、置き去りを防ぐブザーやセンサーといった安全装置の設置を義務付けることが柱だ。
事件は職員による車内の確認不足などが原因だった。安全装置の義務付けはそうした人為的ミスを防ぐ目的で、違反した施設は業務停止命令の対象になる。
同様の事件は昨年も福岡県で起きていた。政府は安全管理を求める通知を各自治体に出したが、教訓は生かされなかった。
岸田文雄首相は「事業者の負担が実質的にゼロになる財政措置を講じる」と述べた。車内の後方に取り付け、子どもが残っていないかブザーで点検を促す装置を想定して、20万円程度を上限に補助する方針だ。
安全装置は普及しておらず、仕様も定まっていないため、義務化後1年間の猶予期間を設け、点検表などの代替手段を認める。
政府は来年6月末までの安全装置の設置を現場に働きかけるとしている。どの施設も設置を着実に進めてもらいたい。
降車時の職員による点呼も義務付けられる。
安全装置を設置しても、万全とは限らない。装置が正常に機能しないことも想定できる。子どもがブザー音を怖がり、職員が電源を切ってしまうことも考えられる。
目で見て確認し声をかける基本的な行動を徹底するのは当然だ。安全装置は補助的な位置付けと認識して確認してほしい。最後に子どもの安全を守るのは、人の力だと肝に銘じてもらいたい。
気を付けたいのは事故がどこでも起こりうるということだ。
政府が通園バスを保有する全国の保育所などに行った緊急点検で、1割が乗降時に子どもの数や名前などの確認や記録をしていないことが分かった。
自治体の調査では、放置されかけた事例が各地で起きていたことも判明した。
職員は子どもを預かる責任の重さを自覚してほしい。子ども一人一人に目配りすることも忘れないでもらいたい。
保育士の数は恒常的に不足し、現場からは人手不足の改善や待遇改善を求める声が上がっている。
国の基準による配置人数は、欧米より少ない。2020年の賃金は月収換算で全産業平均より約5万円低い。
手厚く職員を配置できる基準の見直しや、職場環境の改善も子どもの安全確保に欠かせない。
