円安が止まらない。輸入品価格が上昇し、さらなる物価高を招く恐れがある。物価高は家計や企業収益を冷やし、賃上げや景気回復がますます遠のく。
日本経済の弱さが、一層の円安をもたらす。そうした悪循環から脱する手だてを、政府、日銀は講じなければならない。
円相場は20日に一時1ドル=150円台を突破し、21日は一時1ドル=151円90銭台を付けた。バブル景気終盤の1990年7月以来約32年ぶりの安値になった。
記録的な円安は、日本の国力低下を反映している面もある。市場では1ドル=160円も視野に入るとの見方さえ出ている。
円安の要因に、日米間の金利差の拡大がある。米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅利上げを続ける一方で、日銀は大規模な金融緩和を維持している。
日銀の黒田東彦総裁は一貫して、景気回復や経済成長のために緩和が必要だとしている。だが、バイデン米大統領はドル高を容認しており、低金利の円を売り、高金利のドルを買う流れはさらに強まりかねない。
円相場は、21日深夜から22日未明にかけて1ドル=146円台まで急騰した。政府、日銀が円を買ってドルを売る為替介入を実施したことが分かった。
政府、日銀は先月も為替介入を行ったが、単独介入のため効果は一時的だった。世界的な金融引き締めの潮流にあらがう難しさが浮き彫りになった。
再度の為替介入も、円安進行のペースを鈍らせる「時間稼ぎ」の意味合いが強い。円安ドル高の流れは変わらず、抑止力がどこまであるかは不透明だ。
円安が追い風になっていた輸出企業では、原材料高が直撃するなど、デメリットが拡大している。
財務省が発表した2022年度上半期の貿易赤字は、11兆75億円に上った。半期の赤字として比較できる1979年度以降最大だった。円安進行が円換算の輸入価格を押し上げ、金額ベースでは44・5%も増えた。
家計への圧迫が、さらに強まることも心配だ。
総務省が発表した9月の全国消費者物価指数は、前年同月比3・0%上昇した。消費税増税の影響を除くと、31年ぶりの伸び率だ。
2022年度後半に円相場が1ドル=150円近辺で推移すると、家計負担は21年度比で平均約8万6千円も増えるとの試算もある。
異例の物価上昇は加速するが、賃金改善は進まない。
異次元の金融緩和に依存し、企業の生産性向上や成長分野への人材の円滑な移動といった経済構造の抜本的見直しを怠ったつけだと指摘されている。
政府、日銀は、長期に及ぶ衰退から抜け出す政策を示さなくてはならない。
