事件の歴史的重要性や記録の史料的価値を、著しく軽視したと言わざるを得ない。事件や非公開だった審判の検証が不可能になったことの損失はあまりに大きい。
1997年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件で、当時14歳で逮捕された少年の審判の処分決定書や捜査書類など全ての事件記録を、神戸家裁が廃棄していたことが明らかになった。
2004年に長崎県佐世保市で起きた小6女児殺害事件のほか、愛知県や福島県で起きた重大少年事件などの記録も、各地の家裁で廃棄されていた。
最高裁の内規では、一般的な少年事件の捜査書類や審判記録は、少年が26歳になるまでの保存を規定している。
だが、社会の耳目を集めた事件など一定要件を満たすものは、26歳以降も事実上永久保存する「特別保存」を定めている。最高裁は1992年に内規の運用を定めた通達を出している。
最終的な判断は裁判所長に委ねられ、廃棄が明らかになった事件は、一定の要件を満たしているにもかかわらず、特別保存にされていなかった。
社会に衝撃を与えた重大少年事件の記録が、なぜ各地の家裁で廃棄されたのか、理解に苦しむ。
神戸の事件は子ども2人が殺害された重大性にとどまらず、加害少年が14歳だったことが社会に大きな衝撃を与えた。刑事罰の対象年齢を引き下げる少年法改正への契機にもなった。
記録には、加害者の心理的な状態を記した精神鑑定書が含まれていた可能性が高い。
同様の事件が起きないようにしていくために重要な、一次的資料となる記録だった。
少年審判は原則非公開で、記録も閲覧できない仕組みになっているが、裁判所が許可した場合は活用できる。
殺害された児童の遺族が「今後の検証のためにも資料の保存は重要だ。憤りを感じている」と、コメントしたのは当然だ。
最高裁は特別保存の運用が適切だったかを有識者委員会で検証する。記録保存の在り方についても意見を聞く。
当初最高裁は、記録の廃棄に関して個別調査はしない姿勢だったが、有識者の指摘を受けて調査に乗り出す可能性がある。
失われた記録は戻らない。最高裁は全国の家裁が通達に反して記録を廃棄していた事実を、重く受け止めるべきだ。
全国の裁判所では、一審で自衛隊に違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟など、多くの憲法裁判の記録が廃棄されていたことも、2019年に判明していた。
裁判の記録は裁判所だけでなく、将来にわたる国民の共有財産である。まずは実態と原因を徹底的に究明しなくてはならない。
