政治や経済を混迷させた歴代政権の失政を正し、国内外の信頼をどう取り戻すか。新首相のリーダーシップが問われよう。
英与党保守党の党首に選出された元財務相リシ・スナク氏が、新首相に就任した。英史上最短の在任50日で辞任したトラス氏に代わって英国のかじ取りを担う。
インド系のスナク新首相は、初のアジア系で42歳。20世紀以降の英首相の中では最も若い。
人材の多様化を進めた保守党の期待の星として政治キャリアを積んできた。経済通としても知られ、財務相時代は新型コロナウイルス禍に手厚い給与補償などの支援策を打ち出し、評価を上げた。
トラス前政権が目玉として打ち出した大型減税策は、財源の裏付けが乏しいことなどから、市場の混乱を招いた。
スナク氏は、ジョンソン氏の首相辞任に伴う前回党首選で、トラス氏の減税策を「おとぎ話」と批判し、経済に大打撃を与えると予見した。これが現実となったことから、経済手腕への期待を受けて首相の座を射止めた。
スナク新政権が優先課題として取り組まなければならないのは、政治と経済の安定だ。
2010年から政権を担う保守党は、欧州連合(EU)離脱を巡る対立や不祥事など混乱が続く。この6年余りで4人の首相が相次いで辞任に追い込まれた。
こうした保守党の政権運営に国民の失望と怒りは増している。
トラス氏辞任を受けて実施された世論調査では、25年1月までに実施される次期総選挙で最大野党労働党が政権を奪還するとの回答が65%にも上った。
スナク氏には党の混乱を早期に収め、国民目線で政治手腕を発揮することが求められる。
経済対策も待ったなしだ。
スナク氏は就任後初の演説で、「経済の安定を政府の課題の中心に据える」と強調した。
英国は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響などで物価が高騰し、10%を超える記録的なインフレにあえいでいる。
財政規律を重視しながら、国民の「生活費危機」にどう対応するのか。スナク氏には難しい判断が迫られる。
外交政策では、ウクライナとの連携とロシアに対する強硬姿勢を継続する意向だ。
早期の停戦を実現するためには、ロシアへの制裁などで各国の結束が欠かせない。
日本政府も対ロ制裁や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に英国との協調を重視している。
欧州ではイタリアで自国優先主義を掲げる右派の連立政権が発足し、フランスなどでも反EUの右派・極右が台頭している。
英国は国内の混迷から一刻も早く脱却し、国際社会の連携に向けて存在感を発揮してほしい。
