物価高の影響を強く受ける人や事業者に、着実に行き渡る施策でなければならない。

 ただ「規模ありき」で総額が膨らんだことは看過できない。将来世代につけを残さぬよう、負担軽減策をどう終わらせるのかもしっかり議論すべきだ。

 政府は28日、物価高に対応した総合経済対策を決定した。国の補正予算の一般会計で29兆1千億円を投じる。民間企業が補助金を受ける支出分も含めると事業規模は71兆6千億円程度を見込む。

 柱となるエネルギー対策では、電気・都市ガスの価格抑制策を導入し、ガソリン代の補助は来年も継続する。標準世帯の光熱費・ガソリン代負担を来年1月から9月まで月約5千円軽減する。負担軽減策は総額6兆円を費やす。

 中小企業の賃上げ支援を拡充し、妊娠、出産した女性に計10万円相当を給付する。国内旅行の需要喚起策なども講じる。

 岸田文雄首相は記者会見で、電気代引き下げなどにより来年にかけて、消費者物価を1・2ポイント以上引き下げると表明した。

 驚くのは、総額が一夜で4兆円積み上がったことだ。財務省が26日、官邸に示した額は25兆1千億円だった。だが自民党幹部が30兆円規模を主張し、強く反発した。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で政権の支持率が低迷する中、巨額の経済対策で求心力を取り戻す狙いだろう。

 不測の事態に備えた「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」(仮称)も盛り込まれた。

 内閣の判断で使える予備費は具体的な使い道が決まっておらず、今回4兆7千億円増額することで対策の規模を大きく見せることにつながったと考えられる。

 政府が当初、抑制策に想定したのは電気料金だけだったが、都市ガス業界から不満が殺到した。来春の統一地方選を気にした与党内には、地方で需要が多いLPガスへの支援要望も高まった。

 首相は「内容も規模も大事だ」と述べたが、規模を優先した結果、不要不急の事業に税金が費やされてはいないか。補正予算案を厳しく審議する必要がある。

 財源の大半は国の借金に当たる赤字国債で賄うため、財政が一段と悪化することが懸念される。

 英国のトラス前政権が財源の裏付けを欠いた巨額の減税策を打ち出し、信用を失って政権崩壊に至った記憶は新しい。

 家計の負担を軽減する価格抑制策は、延長を求める声が強まれば政策の出口を見いだせなくなる恐れがある。物価高が収束しないまま打ち切れば、反動で「値上がりの崖」ができることにもなる。

 首相は出口戦略について「その時点でのエネルギー価格の動向を踏まえ、予断を持たずに判断する」と述べた。着地点をきちんと見極めなくてはならない。