読書は世界を広げてくれる。深まる秋に本に親しみ、心に残る一冊と出合いたい。
27日から11月9日まで読書週間だ。今年の標語は「この一冊に、ありがとう」である。
読書の効能は、数えれば切りがない。知識や情報を得られることはもちろん、思索を深めることにもつながる。
実際には体験できないことを文字によって疑似体験できる。言語感覚を磨くことで考えをより的確に表現できるようにもなる。
文脈を正しく理解する力は、読書を通して養われる。社会の各方面で活用されている人工知能(AI)が苦手とする分野だ。
気になるデータがある。文化庁が実施した2018年度国語に関する世論調査で、読書量が「減っている」とした回答が67・3%に上り、増加傾向だ。
そのうち36・5%がスマートフォンやゲーム機、パソコンなど情報機器の使用で時間が取られていることを理由に挙げた。この傾向は若年層ほど顕著になっている。
1カ月間に1冊も本を読まないと答えた人は47・3%だった。
一方で最近は、ウイルス禍で外出する機会が減った結果、読書量が増えたとの調査もある。
読書離れに歯止めをかけようと県内でもさまざまな取り組みがされている。
書籍のネット販売が一般的になり、書店が消えていく中で、空き店舗などを利用し経営者がこだわりの本を並べた個性的な書店が見られるようになった。
長岡市立図書館は子どもの読書を後押しする。年代別にお薦めの本を計100冊選んだり、車両の「移動図書館」に小回りの利く小型車を導入し、よりきめ細かく地域を回ったりしている。
若者向けには、公益社団法人・読書推進運動協議会がホームページでお薦めの本を紹介している。
文学作品の魅力を積極的に伝えていくことも重要だろう。
「日本のアンデルセン」と呼ばれる上越市出身の児童文学作家小川未明は今年、生誕140周年を迎えた。上越市内では未明作品の朗読会などが開かれている。
代表作の一つ「野ばら」はロシアのウクライナ侵攻を想起させ、児童文学の枠には収まらない普遍的なメッセージが感じられる。
県内は優れた文学作品の舞台にもなってきた。
ノーベル賞作家川端康成の「雪国」は、湯沢町を訪れた男性と地元女性の悲恋を描いた。川端は湯沢町の温泉宿で作品を執筆した。
今年が没後100年となった明治の文豪森鷗外の「山椒大夫」は、上越市直江津地域が舞台の一つだ。ゆかりの地をPRすることも、多くの人が名作に興味を持つきっかけになるだろう。
「ありがとう」と言える座右の書を見つけたい。
