新型コロナウイルス禍による生活環境の変化が、若い人の心に負担をかけている。深い悩みや不安に周囲が気付いて寄り添い、自殺を防がなくてはならない。

 政府が閣議決定した2022年版自殺対策白書で、21年の自殺者は2万1007人と、ウイルス禍前の19年に比べて838人多く、感染拡大が続く中で高止まりしていることが分かった。

 顕著なのは若年層の増加だ。ウイルス流行前の15~19年の平均と比べると、30代以上で自殺者が減った一方、10代以下は29・1%、20代は16・7%増えた。

 感染拡大で行動が制限され、対面で人間関係を築く機会が制約を受けた。若い人ほどそうした日常の変化にストレスを感じ、不安を膨らませた可能性がある。

 小中高生の自殺の原因・動機では、女子高生のうつ病など精神疾患による健康問題が特に増えた。

 日本摂食障害学会によると、摂食障害の一つである神経性やせ症の新規患者が10~20代で急増し、21年は19年の2倍前後になった。

 ウイルス禍の影響とみられる。うつを伴うこともあり、衰弱死や自殺に至る恐れがある。

 心身に変化が生じる背景には、悩みや不安があるかもしれない。周囲の若者に目を配りたい。

 看過できないのは、そうした悩みを抱えた若者を交流サイト(SNS)でつけ狙い、命を奪う犯罪が頻発していることだ。

 先月、女子中学生の自殺をほう助した疑いでさいたま市の20代の男が逮捕された。容疑者はSNSで自殺願望をほのめかした中学生を誘い出したとみられる。

 札幌市で女子大学生の遺体が見つかった事件では、殺人容疑で再逮捕された50代の男が「自殺願望がある人たちとSNSでやりとりした」と供述した。

 17年には神奈川県座間市でツイッターに自殺願望を書き込むなどした当時15~26歳の9人が殺害される事件が発覚し、SNSを介した事件に警鐘が鳴らされた。

 同様の事件が後を絶たないことは残念でならない。

 自殺予防に取り組むNPOは、「学校や家庭などで起きる身近な悩みほど、身近な人に打ち明けにくい」と分析する。SNSで「死にたい」とつぶやいても、問題が解決できるなら本当は生きたいという気持ちもあるという。

 若い人たちは、インターネット上で悩みを吐露したとしても、そのつぶやきに反応してくる人の中には、悪意がある人もいることに十分注意を払ってほしい。

 座間市の事件を機に、投稿者の相談に乗る目的で創設された民間資格「SNSカウンセラー」の認定者が増えた。

 SNSでの相談を入り口に、若者を安全な居場所に導くことが重要だ。孤独や孤立に悩む人たちへの支援体制を強化したい。