導入するメリットとデメリットを明確に示して、労働者が困惑しないよう国や事業者は説明する必要がある。セキュリティー対策も万全にしなければならない。

 「ペイペイ」や「楽天ペイ」といったスマートフォンの決済アプリなどを使い、賃金をデジタルマネーで支払う制度が解禁されることになった。

 賃金のデジタル払いを特例で認める厚生労働省の改正省令が2023年4月に施行される見通しだ。スマホ決済サービスを手掛ける「資金移動事業者」のうち、一定要件を満たし厚労相が指定する事業者のアプリが使用される。

 賃金の支払先となるアプリの口座残高の上限は100万円で、労働者はそのまま買い物や送金などに利用できる。

 導入には労働者の同意を条件とし、企業は労使協定を締結する必要がある。

 政府は、成長戦略に社会のキャッシュレス化推進を掲げ、世界最高水準の決済比率8割を目指している。デジタル賃金をはじめ、企業による幅広い活用を促しているのはそのためだ。

 日本での資産が乏しく、銀行口座を開設しにくい外国人労働者にも需要が高いとみられている。

 厚労省は資金移動事業者の指定要件として、アプリの口座残高が上限を超えた場合は金融機関の口座に移すことや、破綻したり、不正取引で損失が出たりした場合は全額補償するとしている。

 しかし、民間機関の調査によると、勤務先で導入されても「利用しない」が「多分しない」を含めて6割を占め、歓迎されているとは言い難い状況だ。

 アプリに対応していない店舗が多いことや、資金移動事業者には新興企業が多く、金融機関ほどに安心感が得られていないことが主な理由に挙げられる。

 資金移動事業者は破綻しても、銀行のように元本1千万円まで保護される預金保険制度の適用外になっている。破綻した場合に全額補償できるのか、事業者に対する安全性への懸念が根強い。

 こうした不安にも政府は対策を示すべきだ。

 金融庁も資金移動事業者の財務状況などをしっかりチェックしていかなければならない。

 資金移動事業者が銀行より低い手数料を設定すれば、コスト面のメリットから企業が積極的に導入することも考えられる。

 このため、デジタル賃金導入の前提となる労働者の合意が「形ばかり」になる恐れがあると指摘する有識者もいる。

 そうならないために政府は導入する企業に対して、労働者に説明する事柄を明確にし、同意を得る手順も厳格化するなどガイドラインを示すことが必要だろう。

 労働者が不安を抱くことがないように取り組まねばならない。