「同意のない性行為は許されない」という最も大切な理念をどう具体化させていくか。

 試案に盛り込まれず、被害者の訴えに折り合えていない。これからの議論が問われてくる。

 刑法の性犯罪規定の在り方を検討する法制審議会(法相の諮問機関)の部会に対し、法務省が見直しの試案を示した。

 これによると、強制性交罪などで処罰できる要件について、被害者を「拒絶困難」な状態にさせた場合とした。

 拒絶困難とは、「ノー」と言ったり、拒むことを考えたりすることが難しい状態とした。虐待を受け続けて思いつくことすらできない、仕事上の不利益を恐れて拒めないケースなどが当てはまる。

 拒否できない状態にさせる行為などには、現行法で定める「暴行・脅迫」のほか、教諭・生徒といった関係性の利用やアルコール摂取など計8項目を例示した。

 見直しの試案は、刑罰適用の範囲を分かりやすく示すのが狙いで、その趣旨は評価できる。何が罪に問われるのかが明確でないと冤罪(えんざい)を生む恐れもある。

 現行法の「暴行・脅迫」要件だけでは曖昧で、捜査機関によっては被害実態を適切に捉えられないことがある。司法判断にもばらつきがあった。

 一方、被害者や支援団体は、同意のない性行為を広く処罰できるよう強く求めてきた。

 試案の要件だと、これまでの運用と同様、拒絶が困難だったことの立証が課される可能性があると主張している。

 立証のハードルが高く、泣き寝入りせざるを得ない被害者がいる現状からすれば、そうした懸念は当然のこととして理解できる。

 「魂の殺人」と呼ばれる性犯罪は心身を深く傷つけ、強く抵抗しなかったと思われているのではと自らを責める被害者も多い。

 スウェーデンは2018年、同意がない性行為は犯罪だと定めた。英国やカナダなどでも同意がない行為は処罰対象だ。

 法制審では、処罰要件案として被害者側が求める「意思に反した」場合も論議したが、法律の専門家らからは「内心を問うと処罰範囲を明確にできない」との意見が優勢だった。

 法務省幹部は「処罰すべきでない人を有罪にする余地があってはいけない」と説明する。

 適正な処罰と冤罪防止のバランスを取った議論が必要だ。

 試案では、性交同意年齢を引き上げ、5歳以上年上による16歳未満への性行為は罰するとした。下着などを盗撮する罪を新設、他人への画像提供や拡散も処罰する。

 肝心なのは「望まない性行為はあってはならない」とのメッセージを社会に伝えることだ。

 性行為の同意に関する意識自体を変えていくことが求められる。